ドクター・チョップと卓球

ドクター・チョップと久しぶりに会って卓球をした。本名はロナルド・ピータースというが、自分で勝手にドクター・チョップ、つまり「カット博士」と名乗ってTシャツに刺繍までしている。彼と初めて会ったのは、今からちょうど10年前の2000年10月、この地に初めて出張に来たときだった。ネットで調べて「南アラバマ卓球クラブ」という名前にだまされて彼の家に泊りがけで行って、死ぬほど卓球をさせられたのだ。

彼は当時からすでに「僕は癌なんだ」と言って治療を続けていたが、最近とくに悪くなってきて、来月からは治療のために卓球をできなくなるというので、私の家と彼の家の中間にあるスタンの家で卓球をしたのだ。癌はどこということはなくて全身にあると言っていたが、極めて明るく、卓球を楽しんでいた。それどころか私は2度も負ける始末だ。全身を癌で冒されながらも車で1時間半も運転をしてきた72歳に私は負けたのだ。

彼は10年前に私が彼の家を訪ねたときに撮った写真を持ってきてくれた。今日撮った写真と比べると私は別人のようだ。10年とはこれほど大きいものなのだろうか(妻は私の変貌の鍵は顔のパーツの位置が移動したことだと断言し「大陸移動説」などと言っている)。

彼のことは卓球王国の「奇天烈逆も~ション」の第1回(2006年1月号)に書いたのだが、前回会ったときにあげたその誌面のコピーを今日も大事そうにファイルにとじて持ってきていた。家では額に入れて飾り、日本人の友達がきたら見せるのだと言う。また、前回私が意訳をしたのだが、その後、郁美さん(スタンの奥さん)にも訳してもらって私が嘘をついていないことを確かめて、アメリカ人にもその英訳を読ませているという。

試合中、私がミスをするたびにいろいろ講釈はするわ、ネットすれば「今のは狙ったんだ」と言い、次もまたネットすると「ほら、言ったとおりだろ」と言う。本当に卓球が好きな、なんともいえないジジイなのだ。