マークとの試合で地獄を見る

リーグ戦の結果は2勝1敗で、1敗は王さんの一番弟子という20代と思われる青年に2-3で負けた。取ったゲームもサービスのごまかしとネットやエッジの幸運であり、もう一度やったら1-3か0-3で負けるだろう。悔しかったがまあこんなものだ。

その後、リーグ戦の結果に応じてトーナメントが始まり、そこで1度勝った後、恐ろしい目にあった。

試合をした相手は見たところ大変なおじいさんで、文字通り歩くのがやっとの人だった。ボールを拾うのにも辛そうにゆっくり拾うし、ラリーをするとまるっきりの初心者に見える。フォアはラケットヘッドを立てて押すだけだし、バックにいたってはヘッドを立てたまま腕をひねってそのままフォア面で打つのだ。アメリカの70年代の名選手、ダニー・シーミラーの卓球だ。冗談じゃない。しかも片面はアンチ。この辺りで気づくべきだったのだが、不覚にも私は油断どころか、試合をするのが申し訳ない気持ちで一杯であった。

試合を始めると、サービスの回転が微妙にわからず、ちょっと浮く。なにしろバックサーブもフォア面で出すのだ。すると、ボールも拾えなかったはずなのに3球目をフォアで回って打つではないか。しかもバックの思いっきり厳しいところだ。さすがに球威はないので「あんな打ち方でよく入ったもんだな」などと思いながらブロックをすると次のボールは目も当てられない逆モーションでバックサイドをぶち抜かれた。初心者によくあるわけのわからないバカ当たりだろうと、まだ私は思っていた。

私のサーブの番になったが全然効かない。アンチ面で受けているわけでもないのに全部取られるのだ。腕と手首だけの奇妙なドライブが回転がちゃんとかかっていて、それが嫌なところに入りしかもミスがない。フォームが奇妙なのでいつ打たれてもまるで不意打ちをされたようで反応できない。打たれた後も、どう打たれたのかよく思い出せないのだ。さらに要所でなんとも不快なアンチ。それであれよと言う間に2ゲームを取られてしまった。

こりゃいかんと思って全攻撃モードで必死にやってやっと1ゲームを返したが、その過程でバックからクロスやミドルを狙った全力スマッシュを前陣でフォアに3本ぐらい抜かれる。シーミラーグリップなので、ミドルのボールまで当たり前のようにビッチリ前陣でブロックするのだ。「まいったな」とちょっと照れ隠しをした笑みを浮かべながら球を拾いに行き、内心は「なんだこれは」と動揺を隠せない。

結局1-3で負けてしまった。負けてもなお私はこのおじいさんが強いことを認められず、これは何かの間違いで、自分が不甲斐ない卓球をしたのだろうと思っていた。ところが試合の後でこのマークという人にレーティングを聞くと2080だというではないか。私より強かったのだ。しかも彼はこの日来ていた全メンバーの中でもっとも強く、私がリーグ戦で負けた若者にも勝ち越すほどの強者だったのだ。年を聞くと61歳だという。ガーンと頭を殴られたようなショックだった。

私が驚いていると周りの人は「知らなかったの?」と言うではないか。誰も教えてくれなかったのだから知るわけがない。そうとわかっていればもう少しやりようがあったかもしれないと思うと、悔しさがつのる。それにしても卓球は奥深い。歩くのもやっとの人に、やり方によっては若者が負けてしまうのだ。

足立さんによると、彼がボールを拾うときに辛そうにするのは作戦だという。本当だろうか。さらに足立さんが「老人っぽい長めの半ズボンを履いているのも作戦だと思う」と言ったのが妙に可笑しかった。一体、そんな作戦があるんだろうか。