足立さんの卓球

卓球台が10台ほど置いてある部屋に行き、いよいよ足立さんと初手合わせとなった。足立さんは長年、平均寿命が58歳という激務の商社に勤めていて、それを辞めて、今は別の日本の貿易関係の会社の米国支部を一人でやっている。卓球は中学生のときにやって以来ずっとやっていなくて、つい4年ほど前に再開したという。足立さんが中学生のときは長谷川信彦と伊藤繁雄が現役のときで、地元の北九州に来て模範試合をするのを見たという。それがもっとも新しい記憶だというのだから驚く。当然、郭躍華も知らなければ孔令輝も知らないのだ。さすがにワルドナーは今でもたびたび話題になるので最近知ったという。

それで、話をしていると、ちょっとしたタイムマシンを経験するような面白さがある。河野満やベンクソンあたりまでも話はできるのだが、ちょっと油断をするとすぐに荘則棟とか木村興治の話になるのだ。

足立さんの戦型は右ペン裏ソフト攻撃型で、もうひとつ通っているクラブを含めると週に3日は練習しているという。王さんの個人コーチも受けているだけあって、まったく古さを感じさせない卓球だった。特にバックのショートは金擇洙ばりの”フォアハンドと同じ腰の回転を使った弾くようなショート”で、足立さんが中学生のときにはまだ世界のどこにも存在していなかった技術だ。

試合は私の勝ちだったが、サービスの回転でごまかしただけであり、基本技術ではまったく対等に思われた。