ぞくぞく出てくる本物たち

ジャックと話をしていると、どこからか似たような年齢の方々が集まってきて話に加わった。恐ろしいことに、その誰もが、荻村や田中は言うにおよばず、藤井や佐藤博治まで知っている。

中でも、私とジャックの話に割って入ってきてさんざんノイズを出したレイという男は、伊藤繁雄、長谷川信彦、河野満の大ファンであり、私の前で彼らの真似をしだした。わざわざカバンからメガネを取り出し、伊藤繁雄の歩き方とその構えをやってみせた。彼によれば、伊藤繁雄と長谷川信彦の全身の筋肉に圧倒され、「あんな卓球を見せられて、どうやってファンにならないでいられる?」と言った。河野満については、やはりメガネをかけてチョコチョコとした歩き方をマネした上で、「コウノはプロフェッサー(教授)のようだった」とその尊敬の念を示した。1967年に長谷川に決勝で負け、その10年後にバーミンガムで優勝したことも知っていて「すごい選手だ」と興奮してまくしたてた。アメリカの卓球選手たちにとってこれらの日本選手は本当にアイドルだったんだと語った。

伊藤、長谷川、河野の偉大さについては、これまでさんざん国内の卓球関係者から聞かされていたが、聞けば聞くほど、その話は「昔の選手は凄かったのに今の奴らは」という年寄りの小言、あるいは選手に近い人が語れば臆面もない自慢話のように聞こえてしまっていた。それが、ラスベガスの卓球場でアメリカ人からその偉大さを聞かされると、その説得力はまったく違ったものになる。私はここで初めて、彼らがどれだけ偉大な選手であり、世界の卓球界に影響を与えたかを知った。

さて、ここまではよかったのだが、このレイ、ちょっと短気で自暴自棄な感じのする情熱家で、私はもっと話をしたいのに、試合をしようと言う。私はすでにジャックと話しながら着替えを済ましていたが、仕方なしにジーパンのまま台についた。するとレイは台の上に60ドルほどバラっと投げ出し「賭けてやろう」と言って興奮している。ともかく3-1で勝ちはしたが、もっと話をしたかった。

後で調べるとこのレイ(Ray Guillen)は、1977年バーミンガム大会のアメリカ代表選手だった。アメリカチャンピオンにもなったことがあるそうだ。日本なら70歳代の元チャンピオンなど強すぎて私の相手にならないが、この世代のアメリカ選手はやはりあまり強くないようだ。レイはカジノに勤めているということだった。確かにそんな感じがした。

他にも、あまり多くを語らず話を聞いているだけだったエロール(Errol Resek)という人も、後で調べると1971年名古屋大会に参加してジャックと一緒に中国をまわった男だった。

なんちゅうクラブだ一体。ウエブサイトのどこにもそんなこと書いてなかったのに(メンバー紹介すらないウエブだった)。