マジックの特殊性

マジックの特殊性についてもう少し書きたい。

マジックで人を喜ばせるのは至難の業だが、ある要因が事態をさらに難しくしている。それは、そもそもマジックを覚えて人に見せようと思う人がどういう性格の人なのかということだ。楽しませようという気持ちもあるだろうが、マジックを覚える最初の動機は、凄い技術を身につけて人を驚かそうというもので、その裏には尊敬されようという気持ちが少なからずあるものだ。そういう演者の自己顕示欲が客が喜ぶことの妨げになるのだ。

素人の場合、客が知り合いだったりすると、普段、どう思われている人間かということまでが関係してくる。当たり前のことだが、高慢でイヤな奴だと思われている人に騙されて嬉しいわけがない。ところが演じている本人は大抵それがわからず、現象さえ見せれば尊敬されると思い込んでいるので「自分はこんな凄いことができるのに、どうしてみんなはもっと喜ばないのか、どうしてもっと見たいと言わないのか」と欲求不満を募らせることになる。

これは「人を騙す芸術」というマジックのもつ構造からくる本質的な難しさなのだ。

テレビに出るようなマジシャンの中にもときどき、演技が速すぎてどこが不思議なのかもわからないようなマジックを客に挑むような態度でする人がいる。実は、マジックを競技としてとらえ、技術を競うことを目的とするマジシャンおよびそれを楽しむマジック通の客の一派が存在して一ジャンルを形成しているのだ。音楽で言えばギターの速弾き競争のようなものだ。それはそれでマジックの楽しみ方のひとつであるが、ときどき見られるそういうマジックが、一般人がマジックをつまらないものと誤解する元になっていることが少し残念である。