ペンホルダーのバックブロックについて

以前、雑誌にも書いたが、近年の日本卓球界でもっとも大きな技術革新があったのはブロックである。ヨーロッパが中国を凌駕した80年代末からランダムに対するブロック練習が導入されたのが大きな要因だろう。

どのようにして導入されたかはよく分からないが、少なくとも私は、当時今野さん(現卓球王国編集長)がやっていたTSP卓球トピックスという雑誌で新しい練習方法を読み、毎月のように目の前が開けていくような経験をしていた。私の周りの卓球好きたちはみんなそうだった。日本の卓球の進歩のかなりの部分は今野さんによるところが大きいと私は本気で思っている。

日本選手が中国よりバックが苦手だったのは1950年代から言われていたことである。だからバックの強化というのはずーーーーーーーーーっと言われていたのだ。しかし何がポイントなのか、どう練習したらよいのかは誰もわからなかった。

今なら分かる。ランダムコースでの両ハンドの練習をすればよかったのだ。日本選手はフォアハンドを重視していたため、バックブロックのとき、相手の攻撃球を返せるほど面を下に向けることができなかった。80年代までの日本のペンホルダーの選手が実戦でバックブロックをする様子を写真などで見るとそれがよくわかる。河野を例外として、全員がかかとを上げて体全体を上にずらして打球している。なぜそうするのか。「伸び上がる力を利用して打球する」などと言う人がいかにもいそうだが、こういうのが典型的なインチキな理屈なのだ。

彼らは、打点を体の下方にズラすことでラケットの角度を出すために飛び上がっていたのだ。仮に体全体が15cm上にズレたとしよう。肩からラケットまでの距離を50cmとすると、この15cmはラケットの角度にして18度の変化をもたらす。ネット上空をネットと同じ幅の範囲内を通すために許容されるラケット角度の範囲は6度ぐらいだから、これは十分に意味のある行為だったのだ。ブロックをするときでさえ飛び上がらないと角度が出ないのだから、それよりラケットをかぶせなくてはならない強打などできるはずもなかった。

ところが、コースが一定だったり規則的な練習の場合、足を組み替えたり打点を体の右側にズラしたり、あらかじめグリップを変える時間があったりするために、このバックの弱さが現れないのだ。当時は、ランダム練習という「応用」は、まずワンコースで何千本も続ける「基本」が「完全に」できてからやるものだという間違った基本信仰があったため、誰もがワンコースあるいは規則的な練習ばかりをやっていたのだ。そしてその「基本」ができたころには、すっかり実戦で使えないスタイルになってしまうというわけだ。もし相手にランダムに打ち込んでもらう練習をしていれば、実戦で使えないバックになっていることはすぐにわかっただろう。

こういう間違った基本信仰は他にも沢山あると思われる。中国にだってあるはずだ。これらをひとつづつ潰していって中国よりも効率のよい練習に改造してこそ、中国を倒すことができるのだと思う。