石垣/山梨ペア

引き続き、女子ダブルス決勝の石垣/山梨ペアと台湾ペアの決勝を見た。石垣も山梨も右利きだが、石垣はカット型で山梨は攻撃型である。相手の台湾ペアは右右のシェーク攻撃型。

先に紹介した、右と左のペアが重ならないコース取りは、実は右利きどうしでもカット型と攻撃型についてはそのまま応用ができる。カット型は通常、バックカットの方が安定している場合が多く、その意味では左の攻撃型と同じ役割を与えることができるのだ。

具体的にいうと、カット型は常に相手コートの向かって右半分に送り、攻撃型は相手コートの向かって左半分に送るようにするのだ。このようにすると、カット型にはバック側のサイドラインより外側にはボールが来ないので、フォア深く構えていれば良い。一方、攻撃型には、フォア側はサイドラインより外側にはボールが来ないので、バック側によって構えていれば良い。このようにすることで、お互いに大きく動くことなく重ならずにプレーをすることができるのだ(左図)。

もちろん、このコース取りには欠点がある。いつも相手の同じコースに返すことになるので、待たれることだ。だから例外は入れなくてはならない。しかし基本的にはこのようにすると非常に試合が楽になるのだ。

このコース取りは、よほど意識してやらないと自然にはできない。なぜなら、シングルスのときには特別なときしかやらないコース取りだからだ。想像してみよう。バックに来たボールを、強打するならともかく、ストレートにつなぎボールを打つことはあまりない。なぜなら、自分は今バックにいるのであり、次のボールをフォア深く打たれたら大きく動かされるからだ。同様に、カット選手がフォア側からバックカットをするときにストレートに送ることはほとんどない。自分が今フォアにいるのだから、次のボールをバック深く責められるようなコースにわざわざ送る理由がないからだ。しかしダブルスでは、シングルスなら大きく動かされる、まさにその領域にパートナーが万全の体勢で待ち構えているわけなので、それで良いのだ。

シングルスの感覚でやると、パートナーを大きく動かしてしまうコース取りになってしまうのは、簡単に言えば、シングルスでは自分が大きく動かなくて済むようなコース取りをするのだが、それがダブルスではその自分の位置にパートナーが入らなくてはならないことを意味するので、大きく動かざるをえないということなのだ。故に、このコース取りはよほど意識してやらないと自然にはできない。

この試合の石垣と山梨のコース取りは、まさにシングルスのそれであった。山梨はつなぎボールのほとんどを相手コートの右半分に送り、したがって石垣は思いっきりバック深く打たれ、山梨はそのボールに当たらないように物凄く大きくバック側によけなくてはならないのだ。石垣も相手コートの左半分に頻繁に送り、そのため山梨はこれまたフォア深く責め立てられて動かされることを余儀なくされていた。下の写真は、山梨がレシーブしたところと、次のボールを石垣が打っているこの試合の典型的なシーンである。石垣、山梨ともに、考えうる最大の動きを強いられるコース取りになっていることが分かる。右の写真の石垣のボールのブレをみると、石垣は相手のフォアからミドルあたりを狙って打っていることが分かる。だから次のボールは当然のごとく山梨のフォアクロスに打たれるということだ。山梨は、この位置からパートナーの石垣をよけながらフォアクロスのボールを取りに行かなくてはならないのだ。これはいかに不利なことかおわかりだろう。

結局、石垣/山梨ペアは台湾ペアに勝って優勝したので、このコース取りの別の側面、つまり相手にバックを使わせるとか、コースを決めないで振り回すという利点が効果を挙げたのだと思う。ただ、もし上に書いたようなコース取りをしたらどうだったのか、負けていたのかあるいはもっと楽に勝っていたのかと想像を膨らませてこの試合を見たのだった。

私としては、定石通りのコース取りをした方がもっと楽に勝てたのではないかと思えて仕方がない。ときどき石垣のフォアハンドの反撃が決まっていたのだが、山梨がほとんど相手の右側につなぐので、なかなか石垣のフォア側にボールが来ず、逆に写真のようなシーンが非常に多く、最初から不利を意図したかのようなコース取りに思えてしかたがなかった。