今月の卓球王国の原稿にフットワーク練習について書いた。
ある練習あるいは技術が勝つために有効か否かを判断するのは極めて難しい。
実際に試合で勝ったとしても、本当にその技術を練習したからなのかどうかは証明できない。それをしなくても勝ったかもしれないし、別のことをすればもっと簡単に勝てたかもしれないと、いくらでも思い通りの主張をし続けることができる。
だから、80年代から90年代に、日本の卓球が低迷した時期、日本の卓球は古いからダメなんだと主張する人がいる一方で、昔の日本選手のようにやらないから弱いんだと正反対の主張する人たちもいた。
これらのどちらも証明も否定もできないが、私は卓球は進化していると信じているので、前者が正しいと考える。これは信念といってよい。
私が卓球技術を考えるとき、よりどころは二つしかない。ひとつは物理的に理にかなっているかどうかだ。理にかなっているといっても、『弧線理論』のようなインチキな後付けの理屈ではダメだ。誰が聞いても未来永劫100%確実に間違いない理屈しか使ってはいけない。たとえば、ラケットを速く振るほどボールは速く飛ぶ、面を下を向けるほどボールは下に飛ぶ、こういった、絶対確実なことだけが信用に値する。もうひとつは、現代の強い選手が実際に試合でどのように動作しているかだ。練習のときの動作は信用できないし、まして言っていることはさらに信用ならない。あくまで実戦でどうやっているかだけを見るのだ。もちろんそれは将来、否定されるものかもしれないが、理想的な動きを考えつくためには卓球はあまりに複雑である(だからこそ技術は進化してきているのである)。それができない以上、現在手本を参考にするしかないと思う。
石川佳純とシンガポールの馮天薇との試合をビデオで見た。5ゲーム通して石川のフットワークを見たが、交差歩を使った回数はゼロだった。バックサイドのサイドラインの外側まで回りこんだ後、フォアに飛びつくときでさえ、近い方の足一本で3回飛んで、交差歩を使わずに飛びついていた。一方、相手の馮天薇は、台から離れて大きく飛びつくときに2回ほど交差歩をしたのを見た。おそらくこれは、全体のフットワークの1%以下の頻度である。
この事実から、少なくとも女子卓球において、交差歩を練習するのはまったく時間の無駄だと私は考える。もちろん、「交差歩は試合ではそのまま役に立たなくても、動きの基本であるから絶対に役に立っている」という主張もあるだろう。しかしそれには何の根拠もない。根拠のないものは信じない。それよりも選手が実際に試合でやっていることの方を根拠にすべきだ。
今はビデオがあるので、一流選手がどのように動いているか、誰でも正確に見ることができる。このようにひとつひとつを考えていけば、もっと効率の良い練習や技術を発見できるのではないかと私は思っている。