恐るべき銀行員

アメリカに住んでいたとき、ある銀行が電話で日本語のカスタマーサービスをやっていて便利だったので、そこを使っていた。

何度か電話で手続きをして大抵は問題がなかったのだが、一度だけ強烈な女性に当たったことがある。

「伊藤条太と申します。」
「はいっ?」
「あ、伊藤条太と申します。」
「はいっ?」
「・・・えーっと、私、今そちらに口座を持っているんですけれど・・」
「はいっ?」
「あの、口座を持っているんです」
「はいっ?」

と、ここいらでやっと私は気がついた。この「はいっ?」がこの人の普通の返事の仕方だったのだ。アメリカ暮らしで日本語が破壊され、なおかつすっ頓狂に張り切った気持ちが入ってこんなアクセントになるのだろうか。
日本でも、質問でもないのに語尾上げを連発する、何か神経の配線が逆にでもなってるんじゃないかと思うような人がいるが、それでもまだ流行だから仕方がないと思える。この人は誰の影響でもなく一人でこういう話し方をするのだ。これをやられたら、どんな人でも聞き返されているとしか思えないから、必ず2回づつ答えるはずだ。「みんないつも2回づつ同じことを言うなあ」なんて、自分のせいだとも知らずにこの人は思っているのに違いない。

アクセントひとつでコミュニケーションを完全に粉砕する、まことに恐るべき銀行員であった。レッド・ツェッペリンの『コミュニケーション・ブレイクダウン』という曲が頭の中で鳴り響いた。