痛い歯医者

少し前から近所の歯医者に通っている。良心的だとのもっぱらの評判の歯医者である。どのように良心的かといえば、少しづつ治療をして何ヶ月も通わせるのではなく、一回の通院でどんどんと治療を進めて短期間に終了し、なおかつ治療が適切なのでその後、なかなか虫歯にならないというのだ。ただしネックは、麻酔をほとんどしない主義らしく、とにかく痛いのだそうだ。だからすいていて、特に子供の姿はほとんどないという。

行ってみると確かにその評判どおりだった。痛いことは痛かったが、その痛さが問題で、なんと、手と歯の間に唇が挟まって痛かったりもするのだ。先日など、鼻の穴がすっかり塞がれて苦しいのなんの。そういう、気配りの足りない歯医者なのだ。

もちろん、歯の治療自体も大変痛い。虫歯のところを例の回転物を使ってキュイーンだのゴリゴリだのとやるのだ。「痛かったら手を上げてください」とは言われているものの、成人男性としてのプライドと、いまさら麻酔されるのも面倒だというのがあり、とにかく我慢した。

痛いなどというのは私の脳がそう感じているだけのことで、それ以外にはなんの意味もなことだとか、南方の戦地から帰ってきたばかりの兵士の気持ちになってみれば、文明の利器に囲まれて寝そべってぬくぬくと歯を治療してもらうなんてあまりの安堵に寝てしまうほどのはずだ、その気持ちになってみれば、この痛さの中でも眠ることさえできるはずだ、などと考えて寝ようとしたがさすがに無理だった。

ともかく、鼻の穴を塞ぐのだけは生き死ににかかわるのでやめてもらいたい。

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