粋なオブジェ

先週、出張で東京の天王洲(てんのうず)というところにある東横インに泊まった。するとホテルの前に大きな屑籠が置いてあって、缶飲料の段ボール箱が詰めてある。その恰好がなんとも味わい深く、不要な廃棄物をあえて玄関先に放置することで、かえってその廃棄物の持つ人工的な魅力が立ち上る面白い試みだと思った。

写真を撮ろうと近くに行くと説明書きのプレートが設置してあった。なんとこれはただの屑籠ではなくて、芸術家による作品だったのだ。

そりゃそうだよな、ただのゴミをこんなところに置くわけないよな、と思った。それにしても芸術作品といっても、段ボール箱など雨でそのうちドロドロになるだろうから従業員が定期的に新しいゴミと入れ替えているのだろう、と思ってハッとした。そんなわけあるかい!近くでよく見るとやはり、これらはすべて石膏で作られた偽物の段ボール箱であり、この芸術家が創作したものだったのだ。

以上のように、私はこのオブジェの正体を段階的に理解するに至ったのだが、さて、このホテルの宿泊者たちはどう思っているのだろうか。ほとんどの人がただの屑籠だと思っているのではないだろうか(実際、私は以前もこのホテルに泊まっていて、そのときはプレートに気づかず本気でただの屑籠だと思っていた)。

そうだとしたらこの作品の作者は嬉しいのだろうかガッカリなのだろうか。多分嬉しいに違いない。「ええ、ゴミ箱だと思ってくれればいいんです」と言うだろう。なにしろ芸術家は変わり者だから、とりあえず意外なことを言うのに決まっている。

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