『進化する卓球』の原稿

「視点・論点」で放送した『進化する卓球』の原稿がNHKのウェブサイトに掲載されている。

放送を見逃した方はどうぞ。

http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/290582.html

それにしても「進化する卓球」とは、魅力的なタイトルだ。これは私が考えたものではなく、出演依頼があったときに担当の方から提示されたものだ。つくづく第三者の目は重要だと感じる。

 

『進化する卓球』の原稿” への 2 件のコメント

  1. 文章を読んで、放送で違和感のあった箇所を確認しました。以下が疑問点、感想です。

    1) 伊藤選手がわざわざ回転がかかりにくいラバーを使っている理由のひとつは、相手の回転に鈍感であるというメリットがあるからです。伊藤選手がしばしばフォア側に来たサービスまで動いてバックハンドでレシーブをするのはそのためです。

    相手の回転に鈍感であるためでバックハンドレシーブをするのではなく、ラバーの種類にかかわらずただバックハンドで打つのが目的です。伊藤がフォアを表ソフト、バックが裏ソフトだとしても、フォア側に来たサービスをバックハンドで打つでしょう。何故ならば、将来はわかりませんが、現在は台上の短いボールに対して安定してドライブを打つ技術はバックハンドでしか確立していないからです。現在、台上フォアドライブを連発する選手を私は知りません。郭躍華の台上ドライブは2バウンド目がぎりぎり台上に入るくらいの長さのボールに対してであり、現在の台上バックハンドドライブとは対象となるボールが違います。

    また、伊藤がバックに表ソフトを使っているのは、相手の回転に鈍感で自打球が入りやすいなどという消極的な理由ではないと思います。相手のボールの回転に鈍感だから自打球が入る、というのは、相手のボールの回転量を判断できないので不正確な角度を出してしまう、あるいは関節の可動域などの問題でそのラケット角度が出せない、ということが理由として考えられます。前者であれば、裏ソフトを使ったフォアハンドでのレシーブは明らかに表ソフトを使ったバックに劣るので徹底的に狙われます。低いレベルのプレーヤーにはよく見かける現象ですが、あの全日本決勝ではそのようなことは起こっていないと思います。どのような用具を使っても、回転量を判断する能力は同じです。後者は、実際に問題にはならないと思います。表ソフトを使用するのは、多くの選手がより慣れている裏ソフトによる打球よりも相対的に少ない回転を威力とするという積極的な理由だと思います。打球が直線的で速い、ナックルボールを出しやすい、などです。
    そもそも、相手の回転に鈍感だから自打球が入りやすいのか、という点も疑問ですが、これは話の本筋から外れるのでやめておきます。

    2) スマッシュを打たれないためには、ネットの高さ程度の範囲を通す必要があります。仮に卓球台の内側3分の1の地点で打つとすれば、それは角度にしてわずか10°弱の範囲なのです。
    この二つの写真は、伊藤選手が平野選手のサービスをレシーブする瞬間ですが、ラケットの角度が大きく違います。伊藤選手は、平野選手の打ち方からボールの回転を判断し、それに適したラケットの角度を10°以内の精度で出しているのです。

    ラケットの角度と、狙う角度を混同して記載しています。両者は同じではありません。速いスイングの時には遅いスイングの時よりも相手の回転による自打球の角度の影響は明らかに少なくなります。y=f(x)のxとyを何の脈絡もなく足し算される違和感です。私も卓球の初心者向きにはわかりやすくて良いのかとは考えました。しかし、私が現在の知識、判断力から、卓球の知識のみを失った状態を想像すると、やはり納得しないだろう、と思います。卓球は門外漢だが物理の専門家、という人たちにも納得してもらう記載が、優れた卓球評論なのではないかと思っています。映画などの評論家を目標として記載され、その方たちを私はよく存じ上げないのですが、その方がたのスタイルがわかりやすさ最優先ならば納得できます。また、これは第一の疑問点に比べれば取るに足りないものです。

    以上、疑問点、感想です。

    1. ご意見ありがとうございます。

      おっしゃるとおり、伊藤選手がバック面に表ソフトを使っているのは、回転の少ないボールによる希少価値がメインであり、フォア側のボールをバックハンドでレシーブするのは打法の有利さ(伊藤の場合は台上ドライブではなく横下チキータがメイン)故だと思います。ただ、相手の回転に鈍感だというメリットも事実としてあるので、それをよりどころとして、嘘にならない程度に、一般の方に卓球における回転の重要性やラバーの性質について、わかりやすく面白く説明をしたというのが正直なところです。回転が少ないことの希少価値や打法の有利さを説明しようとすると、ドライブという打法がいかに理想的な打法かという説明から始めなくてはならなくなるからです。

      打球の角度とラケットの角度の混同もご指定の通り、面白さ、わかりやすさ優先です。そもそも軌道を直線で表していることから正確ではないですし、この場合、正確に数値化するメリットもありません。「回転によってラケットの角度が90度も変わることがあって、ラケットの角度が10度の範囲の精度が必要な場合もある」なら嘘とは言い切れないので、それを根拠として卓球の凄さを表現しました。

      また、理想的な反射を考えた場合、45度斜め方向に飛ぶボールを正面に返すためのラケットの傾きは45度ではなく半分の22.5度ですし、ボールの飛ぶ角度を10度変えるために必要なラケットの角度の変化は5度です。しかしその説明をするとほとんどの人はわからなくなるので、そこも単純化しました。それでも「卓球選手に必要なラケットの角度の精度は10度以内」と書いて嘘にはならない(実際は5度なので)ので良いかと思います。

      「卓球は門外漢だが物理の専門家」をも納得させる記載ができればよいのですが、そういう読者は少ないことと、そのような記載は一般の読者にとって退屈であることから、しないようにしています。物理の専門家には、私の他の文章などから「この人はわかっててあえて単純化して書いている」と思ってもらうことを期待します。その点では、田村さんの質問は、その機会を与えてくれてよかったと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です