悪質マンション勧誘

日本にいるときに、悪質なマンションの勧誘電話でひどい目にあった。たぶん大学の名簿から名前を拾って会社にかけてきたのだと思う。「マンションに興味がない」と言うと、「興味でやるものじゃないでしょ」と言う。「勧誘でしょう」と言うと「どうしてそう決め付けるのか」と減らず口をたたく。話をやめる様子がないので途中で切ると、すぐにまたかかってくる。3回かかってきてあとは来なくなった。

それから2ヵ月後くらいに、今度は家にいるときにかかってきた。声からして明らかに別人だが、「興味でやるものじゃない」「どうして勧誘と決め付けるんだ」とすっかり同じせりふを言う。マニュアル化されているのだ。こちらも腹が立ってくるので切ったり反論したりすると、向こうは怒り出し、何回も延々とかかってくる。住所もわかっているとそれを読み上げ、「今から行く」などともいう。このときはさすがに生きたここちがしなかった。大げさだが「俺は今日、殺されるかもしれない」と思った。警察に電話をすると「まず家には来ないから心配するな」とのこと。実際何も起こらなかった。

その後、会社に同じ奴からかかってきた。向こうは覚えていない様子だ。会社の人事からの指示にしたがって「こちらからかけなおすので電話番号を教えてください」とさんざんねばり、やっと教えてもらった番号にかけたら「ハイ、山口組です!」と相手が出た。相手の名前を言うと「そんな人はいない」と切られた。この山口組ですという台詞が、あまりにドラマのやくざそのものの口調で芝居がかっていたが、本物の可能性も否定できない。市外局番が兵庫県だったからだ。いずれにしても、向こうが名乗った電話番号はでたらめだったことになる。その後も電話はかかってきて「かけてみたのかよ」とかすっかり喧嘩腰になっている。結局、電話を切り続けてその後は何もなかった。

人事部からは「はっきりと断ることが大切」とか「相手の電話番号を聞くこと」という通達があったが、そんなもの何の役にも立たない。こっちはとっくにそんなことは言っているのだ。

彼らの目的、戦略がどのようなものかを冷静に考えてみて、次のような結論を得た。彼らの目的は、こちらを怒らせることだ。怒れば当然、失礼なことを言いたくなる。それをとらえて今度は向こうが怒るのだ(正確に言えば怒っている振りをする)。「その言い方は何ですか」とか難癖をつけてくるのだ。こちらは失言した認識があるので相手が本気で怒っていると感じられるし、相手を怖い人だと思うことになる(会社にかかってきた電話で相手を散々こき下ろしてやった後、こちらの自宅の住所を読み上げられたときの私の恐怖を想像してほしい)。それで正常な判断をできなくして、おそらく言いなりの契約を結ぼうと言うのだろう(そこまでいったことがないのでわからない)。これ以外に、彼らが見ず知らずの我々に電話料金と時間をかけて難癖をつけてくる理由は思い当たらない。ためしに相手の話を素直に聞いて時間がかかってもいいから穏便に収めようとしたこともあるが、そのとき相手は子供の人数を聞いてきたのだ。当然不安になって「教えられない」と言うと、「どうして教えられないんですか、私が何かすると思ってるってことですよねそれ」とまた難癖をつけてくる。つまり、彼らは何か言いがかりをつけるネタを探しているのであり、こちらがどんなに丁重に相手をしても絶対に怒ることが決まっているのだ。

それではこういう相手にはどうすればよいか。とても簡単だ。ただ電話を切り続ければよい。電話を切られたからと言ってこちらの居場所をつきとめて交通費を使ってやってきて悪さをするメリットはどこにもない。ノルマを達成できなくて上司にしばかれるだけのことだ。第一彼らは、本気でこちらに怒っているわけではなく、ポーズでやっているだけなのだ。ぜんぜん気にすることはない。実際にかかってくると延々と電話がかかってくるかのような恐怖に襲われるのだが、冷静になってみれば、たかだか10分ぐらいのことなのだ。それがわかってからはとても簡単になった。職場に私以外の人が同じような目にあうことがあったが、ぜんぜん問題なし。20分間電話を切り続けるつもりで落ちついて対処をすると、ものの10分ともたない。たったの6分ぐらい電話を切り続ければいいだけなのだ。なんと簡単な。卑劣とはいえ相手も仕事だ。出る可能性がない相手に10分間も電話をかけ続けることに何のメリットもないことはすぐにわかる。最後の方になると「お前絶対ぶっつぶしてやるぞ」とか「ばーか」とか言い始めるが、これさえもお決まりだ。気にすることはない。もちろん、留守番電話にするとか電話線を抜くとかでもよい。ポイントは、相手は本気で怒っているわけではないと言うこと。これが恨みで無言電話をする人たちとの違いだ。これはビジネスなのだ。一日中何人にも電話をかけまくっている彼らが、わざわざ押しかけてくることは万に一つもない。

とはいえ、相手も人間なので、あまりにひどい対応をすると損得勘定抜きで、本当にやってきて危害を加えられる可能性を否定できないので、最初だけ丁寧に対応して、あとはただ無言で20分間切り続けて、相手に腹を立てる隙を与えないに越したことはない。果てしなくバカだったり気が狂っている可能性だってあるのだから。

なお、一度だけまともなマンション勧誘の電話がかかってきて逆に驚いたことがある。「まともな人もいるんですね」と誉めてやった。