上司のデビッドが1週間の日本出張から帰ってきて、スルメをお土産に買ってきてくれた。
ところで、ここではアメリカ人にウケるお菓子とウケないお菓子はだいたい決まっている。日本からの出張者がしょっちゅうお土産としてお菓子を持ってくるので、それで試されつくしているのだ。まず、チョコレートとかクッキー、飴などは日本のものはとても美味しいといって食べてくれる。アメリカで売っているチョコレートやケーキなど、あまりに甘くてとても食べれらないのだが、いつもそれを食べているアメリカ人にとっても日本のお菓子は美味しいようである。
その反面、ほとんどのアメリカ人が顔をしかめると決まっているものがある。それは海老せんやスルメに代表される魚介類の醗酵した臭い、海苔、そしてアンコである。海苔は、臭いも嫌いらしいし、海のコケやカビのようなものと考えそもそも食べるものではないと感じているようだ。アンコが嫌いなのは、こちらでは豆といえば塩味と決まっているので、小豆を甘く煮たアンコはとても気持ち悪くて食べられないのだ。日本人にあてはめて考えれば、きゅうりを砂糖で甘く煮たようなものだろうか。
食べ物の好き嫌いは一見、絶対的なもののように思えるが実はかなり相対的で、ちょっとした体験で変わるものだ。私もウニは生臭くて苦くて食えなかったのだが、学生時代に高級な寿司屋につれていかれて、なんとなく食べないと損な気持ちになって食べたら美味くて、それ以来好きになったのである。不思議なのは、嫌いだった頃と同じ味を味わって、そのときの記憶もあるのに、受け止め方だけが違うのだ。気の持ち方だけだと言ってもいい。
妻が学生のときのことだ。家の冷蔵庫からイチゴジャムを取り出してパンに塗って食べようとした。うまく塗れないので、ずいぶんと活きのいいツブ立ちのいいジャムだな、と思いながら食べたらなんとそれは筋子だったという。父親が、よりによって筋子をイチゴジャムの瓶に入れていたのだが、妻はメガネを掛けていなかったものだからよくわからなかったのだ。筋子を塗ったパンを食べてしまった妻は、それ以来、大好きだった筋子が2年ぐらい食べられなかったという。
今回デビッドは、自分は大嫌いなのだが、スルメを私とマイクに買ってきてくれた。最近知ったのだが、マイクはお母さんが日本人なので(全然そう見えないメキシコ人のような顔なのだ)スルメが大好きなのだ。マイクが私のところにきて「今から友達のところに行って、パソコンのキーボードの下にこっそりとスルメを隠して臭わせてやるんだ」といって紙に包んだ3本のスルメを見せてくれた。その同僚は、スルメの臭いを何か腐ったか、あるいは屁か糞だとでも思うのに違いない。「キーボードの下にスルメを隠す」というところがなんともおかしい。