最近買ったインスタントコーヒー、飲んだ後にコップの底にやたらに粉が残ると思ったら、わざとのようだ。本物のコーヒーの粉を入れることでコーヒー本来の香りを強く出すのだという。
「もはや、インスタントコーヒーではない」そうだが、インスタントコーヒーでもいいと思うのだが。ラーメンでもコーヒーでもインスタントにしか出せない味があるのだ。たとえばインスタントラーメンの麺のボソボソとした感じがたまらなく食欲をそそるときがある。あれは生ラーメンでは到底出せない味わいだ。インスタントコーヒーの粉っぽく香りが抑制された毒々しいまでの苦さも同様だ。インスタント製品はインスタント製品本来の魅力を自覚してほしいものだ。
溶けないインスタントコーヒーで思い出すのは、祖父のことだ。もう30年も前のことだが、どこからかレギュラーコーヒーの詰め合わせをもらったのだ。ところが祖父はおろか我が家の誰もインスタントコーヒー以外のコーヒーなど見たことも聞いたこともない。したがって淹れる用具がないのはもちろんのこと、それがインスタントコーヒーではないこともわからないのだ。当然のように祖父は、コーヒーの粉をカップに入れてお湯を注いだ。
祖父は5年前に亡くなったが、上唇をコーヒーの粉だらけにして「このコーヒ、さっぱ溶げね」と言いながらコーヒーの粉に覆われた湯面の隙間から無理やり汁をすすっていた姿を今もときどき思い出す。
それにしても、東北の寒村の根っからの農民である我が家に、レギュラーコーヒーなどという役に立たないものを送ろうと思いついたのは、一体どこの誰だったのだろうか。