『生物と無生物のあいだ』

福岡伸一という人の『生物と無生物のあいだ』という本を会社でみつけたので読んでみた。

その中に、長年知りたかったことが書いてあってとても興味深かった。

万物は原子からできていることは誰でも知っている。では、たとえば食物に含まれているある特定の炭素原子一個に着目した場合、それが体内に入ってどこでどのような動きをするのだろうか。あるものは細胞の一部となって体内にとどまるだろうし、あるものは呼気や排泄物となって対外に排出されるだろう。

理屈はそうに決まっているのだが、あまりにミクロなスケールのことなので、実感がわかなかった。こんなこと確かめようもないわけで、ただぼんやりと不思議がっていたのだった。これに実感を与える実験をすでにルドルフ・シェーンハイマーという人が1930年代にやっていたと知ってすっきりした。

シェーンハイマーは、ネズミの餌に、自然界にはほとんど存在しない通常の窒素原子よりちょっとだけ重い重窒素の入ったものを与え、何日かしてからネズミを解剖し、体内のどこにどれくらいそれが含まれているかを調べたという。シェーンハイマーの予想は、ほとんどの重窒素は体内に排出され、体内に取り込まれるのはほんの一部だというものだったが、結果はまったく違って、わずか3日後には重窒素はネズミの体の隅々の細胞にまで、与えた量の56%もいきわたっていたという。つまり、食物に含まれる原子は、驚くべき速さで体内に取り込まれて細胞になり、古い細胞とどんどん置き換えられているということがわかったのだ。

作者の福岡伸一は、生物とは動的平衡状態、つまり、原子が個体を次々と通り過ぎていく、その流れそのもののことだと書いている。