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マークの卓球

足立さんが撮ってくれた試合のビデオの背景にマークの卓球が映っていた。

これを見てやっと彼の卓球の全容がわかってきた。なんと彼はバックサイドのボールはシーミラーグリップでちゃんとドライブをかけているのだ。かなりラケットを高く振り上げている。しかも、台上のフォアミドルのボールはあろうことかシーミラーグリップのバックハンドでチキータのような打ち方をしている。そのテイクバックが左の写真だ。どおりでどう打たれたのか記憶にないわけだ。ラリー中はボールばかり見ているので、あんまり珍しい打ち方をされると、何をされたのかよくわからないものなのだ。

さらに、マークのフォアドライブの異常さも判明した。一応、テイクバックは体も回しているようだ(中央の写真)。腕を思いっきり背中に引いているのはいいのだが、フォロースルーが凄い。インパクトで極端にラケットヘッドを回して直後に腕の振りを止め、肩の下あたりまでしかラケットを振らないのだ(右の写真)。顔の下あたりに赤く見えるのがラケットで、これがフィニッシュの位置なのだ。これでちゃんと回転がかかっていて両サイドに入れられるのだからたまらない。こんなんだから、いったいどんなボールを打たれてどうやって点を取られたのかよくわからなかったのだ。

これでボールが入るから凄いと思うが、入らなければ間違いなく「だからヘタなんだな」と思うだろう。彼の打ち方を見て実力を判断できる人が果たしているのか、興味深いところだ。村上力さんなら分かるかも知れない。彼は”正しいフォーム”という卓球の常識の外で卓球をしてきた人のためか、日本にもときどきいるこういう変な格好で強い人を初見でちゃんと「これは手ごわい」と判断できるのだ。

マークとの試合で地獄を見る

リーグ戦の結果は2勝1敗で、1敗は王さんの一番弟子という20代と思われる青年に2-3で負けた。取ったゲームもサービスのごまかしとネットやエッジの幸運であり、もう一度やったら1-3か0-3で負けるだろう。悔しかったがまあこんなものだ。

その後、リーグ戦の結果に応じてトーナメントが始まり、そこで1度勝った後、恐ろしい目にあった。

試合をした相手は見たところ大変なおじいさんで、文字通り歩くのがやっとの人だった。ボールを拾うのにも辛そうにゆっくり拾うし、ラリーをするとまるっきりの初心者に見える。フォアはラケットヘッドを立てて押すだけだし、バックにいたってはヘッドを立てたまま腕をひねってそのままフォア面で打つのだ。アメリカの70年代の名選手、ダニー・シーミラーの卓球だ。冗談じゃない。しかも片面はアンチ。この辺りで気づくべきだったのだが、不覚にも私は油断どころか、試合をするのが申し訳ない気持ちで一杯であった。

試合を始めると、サービスの回転が微妙にわからず、ちょっと浮く。なにしろバックサーブもフォア面で出すのだ。すると、ボールも拾えなかったはずなのに3球目をフォアで回って打つではないか。しかもバックの思いっきり厳しいところだ。さすがに球威はないので「あんな打ち方でよく入ったもんだな」などと思いながらブロックをすると次のボールは目も当てられない逆モーションでバックサイドをぶち抜かれた。初心者によくあるわけのわからないバカ当たりだろうと、まだ私は思っていた。

私のサーブの番になったが全然効かない。アンチ面で受けているわけでもないのに全部取られるのだ。腕と手首だけの奇妙なドライブが回転がちゃんとかかっていて、それが嫌なところに入りしかもミスがない。フォームが奇妙なのでいつ打たれてもまるで不意打ちをされたようで反応できない。打たれた後も、どう打たれたのかよく思い出せないのだ。さらに要所でなんとも不快なアンチ。それであれよと言う間に2ゲームを取られてしまった。

こりゃいかんと思って全攻撃モードで必死にやってやっと1ゲームを返したが、その過程でバックからクロスやミドルを狙った全力スマッシュを前陣でフォアに3本ぐらい抜かれる。シーミラーグリップなので、ミドルのボールまで当たり前のようにビッチリ前陣でブロックするのだ。「まいったな」とちょっと照れ隠しをした笑みを浮かべながら球を拾いに行き、内心は「なんだこれは」と動揺を隠せない。

結局1-3で負けてしまった。負けてもなお私はこのおじいさんが強いことを認められず、これは何かの間違いで、自分が不甲斐ない卓球をしたのだろうと思っていた。ところが試合の後でこのマークという人にレーティングを聞くと2080だというではないか。私より強かったのだ。しかも彼はこの日来ていた全メンバーの中でもっとも強く、私がリーグ戦で負けた若者にも勝ち越すほどの強者だったのだ。年を聞くと61歳だという。ガーンと頭を殴られたようなショックだった。

私が驚いていると周りの人は「知らなかったの?」と言うではないか。誰も教えてくれなかったのだから知るわけがない。そうとわかっていればもう少しやりようがあったかもしれないと思うと、悔しさがつのる。それにしても卓球は奥深い。歩くのもやっとの人に、やり方によっては若者が負けてしまうのだ。

足立さんによると、彼がボールを拾うときに辛そうにするのは作戦だという。本当だろうか。さらに足立さんが「老人っぽい長めの半ズボンを履いているのも作戦だと思う」と言ったのが妙に可笑しかった。一体、そんな作戦があるんだろうか。

足立さんの卓球

卓球台が10台ほど置いてある部屋に行き、いよいよ足立さんと初手合わせとなった。足立さんは長年、平均寿命が58歳という激務の商社に勤めていて、それを辞めて、今は別の日本の貿易関係の会社の米国支部を一人でやっている。卓球は中学生のときにやって以来ずっとやっていなくて、つい4年ほど前に再開したという。足立さんが中学生のときは長谷川信彦と伊藤繁雄が現役のときで、地元の北九州に来て模範試合をするのを見たという。それがもっとも新しい記憶だというのだから驚く。当然、郭躍華も知らなければ孔令輝も知らないのだ。さすがにワルドナーは今でもたびたび話題になるので最近知ったという。

それで、話をしていると、ちょっとしたタイムマシンを経験するような面白さがある。河野満やベンクソンあたりまでも話はできるのだが、ちょっと油断をするとすぐに荘則棟とか木村興治の話になるのだ。

足立さんの戦型は右ペン裏ソフト攻撃型で、もうひとつ通っているクラブを含めると週に3日は練習しているという。王さんの個人コーチも受けているだけあって、まったく古さを感じさせない卓球だった。特にバックのショートは金擇洙ばりの”フォアハンドと同じ腰の回転を使った弾くようなショート”で、足立さんが中学生のときにはまだ世界のどこにも存在していなかった技術だ。

試合は私の勝ちだったが、サービスの回転でごまかしただけであり、基本技術ではまったく対等に思われた。

ウエストサイド卓球クラブ

いよいよ足立さんの通っているというウエストサイド卓球クラブに到着した。ちょっと通りから奥に入ったところにあったので専用の卓球場かと思ったが、そうではなくてもともとはフェンシングの練習場で、時間によって卓球クラブが借りているということだった。なので、会場の看板にはtable tennisの文字はない。

中はかなり広く、二つの部屋に分かれていて、片方の部屋には卓球台が一台だけ出してあり、そこでこのクラブのコーチである、王巍(Wang Wei)さんという女性が時間性で個人コーチをしていた。王さんは中国のナショナルチームにいた人で、それほど有名ではないが、千葉やエーテボリにも出場していた。引退後は96年アトランタ五輪にアメリカ代表で出場している。足立さんの言うとおり、ものすごく優しそうで感じの良い人だった。私は中国の指導に興味があったので、さっそく素振りの重要性について聞いてみた。すると、中国でも素振りは大切な練習で、フォームができあがる最初の2年ほどは毎日させるという。日本では国の代表クラスの選手にとっても素振りが重要だと考える人がいるが、中国ではどうかと聞くとそれはなく、素振りをさせるのはあくまで初心者の段階だけだという。思ったとおりだ。

写真は王さんの個人コーチの方の部屋だ。肝心の王さんの写真を撮り損ねた。

山頭火でラーメン

レンタルビデオ屋の隣にはLee’s TofuとかTebasaki Chickenとか書いたわけの分からない日本レストランがあった。

その後、私がラーメンを食べたかったので、山頭火があるというモールに行き、ミニみそラーメンを食べた。まだ蟹で腹がいっぱいであまり食欲はなかったのだが、なにしろこの後夜8時から、足立さんの通っているウエストサイド卓球クラブで卓球をするので、食べないわけには行かない。このクラブでは毎週土曜、総当りの大会を開いていて、夜の12時頃まで試合をするというのだ。

さあロサンゼルスの卓球クラブ、いったいどんな人たちがいるのか、これからが面白いところだ。

ロスの古本屋とレンタルビデオ店

ドーサンやアトランタでは有り得ないことだが、ロスにはなんと日本語の古本屋まであった。しかも1ドルコーナーまである。これは日本のブックオフと同じだ。

しかも幸運なことに、閉店セールをやっているレンタルビデオ屋まであった。日本のDVDをわざわざ日本から取り寄せると大変な金額になるのだが、それがここでは中古とはいえ3ドルで売っていた。しかも話題作が目白押しだ。

写真の量を買ってたったの30ドルだったので、日本で買うよりも安く買えた。ただ、中を開けてみるとすべてコピー品だったが・・・さすがだ。画像には問題ないのでよしとしよう。

ロスの本屋

同じ建物の中には大きな本屋もあった。壁には、日本での本の定価とこの店での売値の対応表が100円きざみで貼ってあった。1600円なら23ドルという具合で、やはり送料と手間賃の分、1.5倍くらいの値段になっていた。

卓球王国があるかどうか見たが、残念ながらなかった。「料理王国」がいつものように紛らわしい。

スポーツ本コーナーには意外にも卓球の本も置いてあった。アメリカでわざわざこんな本を買って卓球をする人がいるとは思えないのだが、ともかく置いてあった。卓球王国から出版されているものでは、唯一、高島規郎の『戦術ノート』が置いてあった。さすがだ。ロスで『戦術ノート』とはおしゃれである。

ちなみに足立さんは、ロスの本屋さんに頼んで卓球王国を毎月取り寄せてここ4、5年は毎号読んでいるという。年間で150ドルくらいするというから、かなり高い。それで私の連載も読んでくれていて、ブログを見てメールをくれたのだ。だからこのブログも読んでいるというわけだ。

日本食スーパー

さすがにロスは日本人が多いというだけあって、日本食のスーパーまであった。ミツワというスーパーだが、建物の外観はいつものように思いっきり勘違いしたようなデザインで「日本」をアピールしていた。どうみても中国だが、これがアメリカにおける日本らしさなのだから仕方がないのだろう。

私は急に和菓子を食べたくなり、2.8ドルもするきんつばを1個買った。足立さんも甘いものが好きで、薄皮饅頭を1個買ったので、二人でお茶屋さんの赤い布が敷いてあるイスに並んで座って食べた。・・・ますます疑われる。

茶屋にはなにやらコスプレをしているアメリカ人がいたので、こっそり写真に撮った。ちょうどその日、そういう会合だかなんだかがあったらしい。

蟹屋2

ここの蟹の食べ方は変わっていて、屋外の石のテーブルの上で、木槌を使って叩いて甲羅を割るのだ。こんな軽い木槌で割れるものかと思ったが、軽く何度も叩くとそのうち割れることがわかった。

割った断面を見ると、かなり甲羅が厚く、日本で知っている蟹とは種類が違うことを実感した。それにしても、蟹みたいな面白い形の生き物を見ると、どうしても進化の不思議さを考えざるを得ない。塩さえ使わないのに美味い蟹味噌を食べながら「こんなに美味いんじゃ食われるわけだ」と思った。

蟹屋

ロサンゼルス空港で迎えに来てくれた足立さんと初対面を交わした。
まずは昼食を食べることになり、足立さんの車で海沿いの蟹屋さんに行くことになった。ロサンゼルスというとなんとなく刑事コロンボとか近代的なビルばかり連想していたが、ビーチも結構有名らしい。

蟹屋に行くと、見たことがない形の生きた蟹が置いてあり、そこから好きなのを指定してその場で茹でてもらう方式だ。生きた蟹はライブ・クラブで、死んだ蟹はフレッシュ・クラブと書いてあり、なるほどと思った。この店ではウニまで置いてあり、立ったまま生ウニを食べている人もいた。アメリカ人もウニを食うのかと思ったが、よく見ると客の7割ぐらいはアジア人だった。ロスはアジア人が多いが、こういう店だと余計多いのだろう。