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荻村伊智朗の眼力

かつての1980年代、日本には『卓球日本』という日本卓球協会の機関誌があった。そこで荻村伊智朗が毎月、昔話に筆を振るっていたのだ。

1980年12月号では、「世界で最も強かった男」と言われたチェコスロバキアのバーニヤという選手の眼力について書いている。荻村は小学校のときから人を正視する訓練をいやというほど受けていたので、バーニヤの眼力を見て只者ではないことがわかったという話だ。私など生前の荻村に会ったら、一体なんと言われたのだろうか。いろんな意味で恐ろしい(すべてを見透かされても嫌だし、まったく的外れなことを言われて気まずくなるのもまた恐ろしい)。

こうやって面白がりながらも、最後にある、次のような文章には感動で身を震わせてしまう。私にとって荻村伊智朗とはそういう人なのだ。

「勝つ時は誰でも精神が高揚していて、その姿はみごとであり、雰囲気は輝いており、絵になるものだ。負ける時にその精神がいつまでも記憶され、その姿が絵になる選手は本当のチャンピオンと言えよう。世界のチャンピオンでなくともよい。県の、市の、村の、クラスの、たった二人の間のチャンピオンでもよい。ローカルチャンピオンであっても同じである。やがて、だれでもそのチャンピオンの座を降りる時がくる。そのような時、私たちがどのように振るまうかが大切なことなのだ、と私はバーニヤから学んだのであった。」

荻村伊智朗の記事

年末の休みでゆっくりしているので、普段見ないような蔵書を眺めている。そこで目についたのは、以前、大宅壮一文庫に注文をしてコピーを手に入れた荻村伊智朗関係の記事だ。

1991年6月7日の週刊朝日には次のような記事が載った。荻村が亡くなる3年前で、統一コリアチームの女子が中国の8連覇を阻んで大成功に終わった世界選手権幕張大会の翌月の記事だ。

「国際政治のバックステージでロングドライブを放つ五十八歳の信念 荻村伊智朗」だそうだ。

記事ではIOC委員の岡野俊一郎という人の荻村についてのコメントが載っていた。

「とにかく、酒が強くてタフなことに驚きます。北京のアジア大会のときでも、パーティーを終えて、二次会、三次会の後、ホテルの僕の部屋で三時すぎまで飲み続けて、ウィスキーをぐいぐいと一本以上飲んだんじゃないかな。それでいて、今日北京にいたと思ったら、次の週には平壌にいて、翌週はヨーロッパにいる。俊敏ですね。先日もサマランチ会長とある席をともにしたんですが、彼は芸者の踊りや小唄の意味をその場で通訳したり、なぜ日本が海外派兵できないかを、明治憲法から説き起こして説明していた。『彼は百科事典だ』といったらサマランチさんもうなずいていましたよ」

明治憲法からか・・・それは敵わんなあ。最後には荻村自身の言葉として次のような文章が載っていた。

「われわれの卓球ニッポンのころの実力をいまと比べるのはナンセンスです。ラケットなどがハイテクになって、機材が全然違うから。ただ、私は二年前に沖縄国体の優勝者に、一ゲームだけですが勝ちましたよ。もちろん、そのときは関節はガタガタになって、もうトーナメントでは駄目ですね。しかし、六十歳近い人間が勝てるってことはどういうことかってことですね。いまだって自信がありますよ。世界チャンピオンになった人間はだれだってね。」

だそうだ。いったい、何を言いたかったのだろうか。この荻村に負けた国体優勝者が誰なのか、どうやって負けたのかぜひとも知りたいものだ。

昔の自分に言いたいこと

昨夜は、職場関係のメンバーと今年何度目かの忘年会をした。

参加をしたTさんは、最近テレビだかネットだかで見た「同性の俳優の顔になれるとしたら誰になりたいか」というアンケート結果の話をした。その結果、1位になったのは男性は福山雅治で、女性では北川景子だったという。このとき女性の名前がなかなか思い出せず、オーダーをとりに来た女性店員に「○○のコマーシャルに出ている人、なんていう名前でしたっけ?」と聞いて、その店員に話しかける機会を作るという、高度な技術まで披露した。

さて、自分なら誰になりたいかという話になったが、Tさんも私も「自分以外の誰にもなりたくない」というものであった。そこから幼少時代の話になった。

Tさんは子供の頃、何をやっても他人よりうまくできず、自信のないもんもんとした少年だったという。異性を意識するようになる中学生時代にはそれがさらに極端になり、大学時代にはその反動で「ポパイ」などを読み漁って「こうすればモテる」という記事を本気にして自分に合わないことをやっていたのだという。女性とデートをしたときに車のトランクから薔薇の花束を出して引かれたり(もちろん付き合ってもいないのにだ)、思い出すとギャッと言いたくなるようなことをしていたそうだ。

最近、そういうことを思い出すにつけ、子供のころの自分に会って「自分らしくあれ」と言ってやりたいという。

一見、月並みな台詞だがこれは私にも響いた。思えば私も大学生の頃はアイビールックに身を包み、革靴などを履いたり、ときには襟なしシャツなどを着たりしたものだ。ところが、それらの施策が実を結んだと実感したことは一度もなかった。何事も自分に合わないことをやってもダメなのだ。そのようなことに気づいたのはずっと後のことだった。

私も若い頃の自分に言いたい。「似合わないことは止めろ、そんなことをしても無駄だから別のことをがんばれ」って。

タクシー・ドライバー

私の好きな映画の中に『タクシー・ドライバー』というのがある。

それとは関係がないが、最近乗ったタクシーの運転手が変わっていた。こちらが「次を右に曲がってください」などと道案内をすると、曲がるたびに「はい、右に曲がりましたー」と言うのだ。何の確認のつもりか知らないが、こちらが泥酔しているわけでもないのにいちいち状況を説明するのだ。私はこういう、口癖のようなものがとても気になるタイプなのでもう二度と聞きたくない気持ちになった。それで、家の近くに来て立て続けに曲がる場所にきたとき、「はい曲がりましたー」と言わせないように矢継ぎ早に指示を出してそれを防ぐことに成功した。

しかし最後に止めてもらったとき「はい街灯の下です」と言われてしまった。くそー。

不必要な確認といえば、コンビニの店員だ。支払いをしようとカードを出すと「カードからでよろしかったですか」ときたもんだ。カードを出しておいて実は紙幣で払いたいなどという可能性があると思っているのだろうか。

今野編集長の災難

今野さんから気の毒な話を聞いた。大阪で行われていた世界選手権代表選考会の帰り、男子ナショナルチーム監督の倉嶋洋介氏を乗せて車で東京まで帰ってきたらしいのだが、車中、倉嶋氏が「フライデー読みましたよ」と言ったという。

「何のこと?」と今野さん。「とぼけないでくださいよ。アレ、今野さんでしょ?」と倉嶋氏。詳しく聞いてみると、12/20発売の写真週刊誌フライデーに、ユース五輪の選考をめぐる揉め事の記事が載っていて、その中に「卓球専門誌記者」のコメントが出てくるのだという。それがかなり協会に批判的なコメントなのだが、卓球王国のウエブや雑誌で今野さんがこの問題を何度か書いていることから、これは今野さんだと思われているというのだ。

思い返してみると、今回の取材中、協会の人たちがどことなくよそよそしかったという。なんとも気の毒な話だが、正直、面白い。卓球専門誌といえばメーカー誌以外には卓球王国ぐらいしかないのだから「この記事を読んだら自分でも俺だと思うよな」と今野さん。「卓球界の90%以上はこれ今野さんだと思ってますよ」と倉嶋氏。

実際は、今野さんは、週刊誌の取材はすべて断っているという。昔は、何か有名になるような気がして喜んで取材を受けていたのだが、結局、悪い発言ばかり取り上げられてロクなことがないことがわかったので、断ることにしているという(しかも名前も「金野」などと間違われる始末らしい)。

それにしても、取材を受けた「卓球専門誌記者」とは誰なのだろう。といって、それほどひどいコメントをしているわけでもないので、まあ騒ぐほどのことでもない。

ただ、今野さんは「俺じゃないって!」ということなので、代わりに私がこんなところでひっそりと書いてあげる次第だ。

超能力者と幽霊

年末の恒例番組、ビートたけしの超常現象スペシャルを見た。まあまあだったが、超能力パフォーマーとして出てきたウェイン・ホフマンという人には困った。超能力者という触れ込みなのだが、やったのはすべてマジックだった。テレビ番組のやらせを問題にされることがあるが、ああいうものをマジックだと注釈をつけずに放送したらかなりの人が「超能力ってあるんだ」と思うだろう。そして、それを食い物にする商売のカモになってしまうのだ。信じるのは自分の責任だとはいっても、嘘の情報を流しておいて自己責任とはあまりにもひどいと思う。これは一種の詐欺である。実害があるという点で、ブラックタイガーを車海老だと偽装するよりも性質が悪いと私は思う。

こういう明白な嘘を意図して放送したら罰則を設けるぐらいの規制が必要だろうと思う。

幽霊が映った映像というのもひどかった。肉眼では見えない幽霊がカメラに映ることを不思議に思わない人がいるようだが、人間の網膜とカメラの撮像部分に像が映るメカニズムはまったく同じなのだからそんなことはあり得ない。仮に霊魂が直接電子回路に働きかけて自分の姿を映したと考えると、その霊魂はデジタル記録にかかわる電子回路やプログラムに精通していなくてはならない。生前、さぞ優秀なエンジニアだったか、あるいは霊界で教育でも受けたのだろう(笑)。

幽霊のくせに眼鏡をかけているのもいたから、おそらく眼鏡にも霊があるのだろう。もちろん衣類にもだ。もともと生きていない鉱物や化学繊維にも霊魂があるというのだから豪華な話である。

ゲストたちが幽霊の映像とやらを見てはきゃーきゃー騒いでいたが、いい大人が何を怖がっているのだろう。霊魂があるならこれほど結構なことはない。死を恐れなくて済むからだ。運悪く幽霊に呪い殺されたとしても霊魂があるのなら自分も幽霊となって死後の世界を楽しめばよいだけではないか。

どう考えたって幽霊がいないことの方が底なしに恐ろしい。だれか早く幽霊がいることの間違いのない証拠を見つけてほしい。

キラ星の如く

先日、NHKで和食関係の番組を見ていたらとても興味深い場面に出くわした。

登場した料理人が、尊敬する人たちのことを「キラ星のような人たち」と表現をした。これは誤用である。世の中にキラ星などというものはない。キラとは綺羅、つまり綺麗な衣装のことなのだ。綺麗な衣装をまとった人たちが星のように大勢いる様が「綺羅、星の如し」である。この誤用はもはや誤用とは言えないほどに定着しているので、料理人が間違えるのは仕方がない。

面白かったのは、料理人がこの誤用をしたちょっと後に、ナレーターがまったく正しい用法で「綺羅、星の如し」と言ったことだ。これは「スタッフはちゃんとわかってるよ」というNHKの表明であるに違いない。さすがに料理人に「それ、誤用なので言い直してください」とは言えないし、かといって放置すれば、うるさい視聴者(私はやりません)から「間違った日本語を放送するな!」と苦情が来るかもしれない。これを巧妙に回避するために文脈上不要なのに、わざわざこの台詞を使ったのだ。

いろいろと気をつかっているなあとニヤリとさせられた。

忘年会

昨夜は仕事関係の忘年会だった。ありがたいことに、このブログを毎日チェックしているという方もいて、マメに更新しないとダメだなあと思った次第だ。

忘年会では、この日のために新しく用意をした手品の新ネタでイリュージョンをぶちかまし、これまでで最高のウケをいただき、大満足であった。

また、私ではないが、忘年会にありがちな股間からイリュージョンを発揮している男もいて、そちらも大盛り上がりを見せた。女性もいたが喜んでいたのでセクハラではないだろう。

私は二次会ではマジックのために用意したカツラをかぶってスターリンとルースターズを熱唱。いい時代になったものだ。

花巻のキクちゃん

先週は出張で、羽田の東横インに泊まった。仕事は品川だったのだが、わざわざ羽田のホテルに泊まったのは、その近くにある居酒屋に行きたかったからだ。8月に羽田から飛行機に乗る仕事があり、そのときに同じホテルに泊まり、近くの小さな居酒屋に入って楽しい思いをしたので、論理的ではないが、なんとなくまた楽しいことがあるような気がして今回も行ったのだ。

前回入ったとき、最初は「失敗した」と思った。地味だが旨い料理に地酒を取り揃えてあるような店を期待して入ったのだが、そのどちらでもなかった。料理は焼きそばや冷奴、フライドポテトに枝豆と種類が異様に少ないし、酒はコンビニで買えるようなものばかりで、夢も希望もない店だった。しかもママさんともう一人の店員は、どちらも客席に座りっぱなしで客と話すのに忙しく、私が焼きそばを注文してもさっぱり作らない。しかもその話の内容は「PTAの会長とお母さん方がデキているのは常識」とか頭の痛くなるような話だった。

私が入るとすぐにママさんから「東横インの方でしょう?」と言われ、ちょっと感心したのだが、今回も同じことを言われ、よく考えると顔見知りの客以外は近くのホテルに泊まっているに決まっていることに気がつき興覚めであった。ママさんは「90%は当たる」と言った。羽田というと飛行場の印象しかないが、周りには会社や住宅地があり、この店には出張者ではなくて近所の住人が来ているというわけだ。

自分以外は全員知り合いの店というのは気持ちが良いものではないから、入ってすぐに帰りたくなったのだが、そういうわけにもいかず飲み始めたら、隣に座った私よりちょっと年配の気の良い男性の身の上話が面白く、引き込まれた。この近くの会社に勤めていて、昔は月に3週間は韓国と台湾に出張していて、それに関連した苦労話や武勇伝とかそんな話だ。韓国に行くと珍しいものを食べさせようと犬を食わせる客がいるが、もう飽きていて珍しくなくても驚いたふりをしなくてはならないとか言っていた。なるほどなあ。

それが妙に面白かったので、その人がいるとは限らないのに、今回もその居酒屋に入った。その男性「クラさん」は前日に来ていたそうだが、その日はいなかった。しかし今回隣に座った男はそれ以上に面白い男だった。

キクちゃんと呼ばれるその男は、37歳で、なんと私と近い花巻の出身だという。とにかく気の良い男で、いろいろと身の上話を聞いたのだが、高校生のとき「何も悪いことをしていないのに警察に4回捕まり、指紋をとられ四方八方から写真を撮られた」そうだ。具体的に聞くと、友達が盗んできたバイクをばらして改造してあげる商売をしていただけだという。家に溶接の道具があったので無免許で溶接もしていたそうだ。また、近所で痴漢が出たときには真っ先に疑われやはり警察に引っぱって行かれたという。学校でテスト中に警察が来たこともあるという。カンニングもしていないのに何かと思ったら(カンニングで警察が来るか)、つきあっていた彼女が車の無免許運転をしたので、両親のいない彼女の身元引受人として呼ばれたのだという。「何も悪いことをしていない」というのは「殺人も窃盗もしていない」ということなんだと思う。

当然のように暴走族にも入っていたそうだ。暴走族は勝手に作ってはいけなくて、ちゃんとヤクザの組に申請をしないといけないのだという。あるときヤクザの人の家に行くと、昼間っから「仁義なき戦い」のビデオを見ていたという。「あ、やっぱり見るんだ!」と思ったそうだ。

腕にやけに大きな白い腕時計をしていたのでどういうものかと尋ねると、シャネルの偽物だという。本物なら70万円もするが、これは偽物なので5万円だったという。何年か前に東京に出てくるときに弟からはなむけにもらったそうで、心のよりどころだそうだ。そんな偽物がどこで売っているのかと聞くと、ヤクザが売りに来るのだそうだ。ジップロックなんかに入っているが、望めば保証書や箱もつけてくれるという(要らない・・・)。

 

キクちゃんによると、本物は一目でわかるそうだ。というのは、以前、ロレックスの50万円の腕時計を持っていたのだが、金属の光沢などが全く違うのだそうだ。あと、本物は日付が零時きっかりに変わるのに対して、偽物は少しづつ変わるのだという。50万円もするロレックスは、博打で負けて取られたそうだ。よくそんな高い時計を買えましたねと言うと「ローンをすれば誰でも買えますよ」とのこと。

キクちゃんは4人兄弟の長男で、最近、妹が結婚をしたいという男を実家に連れてきたという。その男は貯金もなく借金があるのだそうで「そんな男はダメだ」と反対をしているそうだ。キクちゃん自身は、花巻にいたときに彼女がいたのだが東京に出てくるときに別れ、今は酒とパチンコに絞って一生独身と決めて、週に3日はこの店に通っているそうだ。

ちなみに、キクちゃんの隣に座っていた「班長」と呼ばれる人も独身で週に5日この店に通っているそうだ。近距離のトラック運転手で仕事では実際に班長なのだという。この方も何とも言えない味のある方で、九州出身だが「東京は暖かくて良い」と言っていた。彼によれば、九州も東京も緯度はほとんど違わず(初めて聞いた)その他のファクターの方が支配的なのだそうだ。

とても人には勧められないが、なんとも不思議な店である。次回の出張の時にも行ってみようと思う。

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