情けない奴

私はヒゲが濃い。ジョン・レノンがヒゲをはやした写真を見て、自分もヒゲをのばせるようになればいいなと高校生の頃に思っていたのだが、だんだんと濃くなてきて、二十歳を過ぎたころにはどうやら自分はヒゲが十分に濃いようだとわかり、心底嬉しくなったものである。世の中には、ヒゲを伸ばしたくても薄くてどうにもならない人がいるわけで、この点では私は良い体に生まれたと喜んでいる。

問題はヒゲと髪の毛の関係である。ヒゲというのはなにやらとてつもなく硬い。だいたい、手の甲が痒いときなどアゴに当ててこすれば掻けるし(どうしてわざわざアゴで掻くのか、と思うかもしれないが、もう一方の手を使う必要がないので便利なのだ)、そのとき手の甲には無数の白い掻き傷ができるほどである。これだけ硬くて濃いヒゲを何かの役に立てられないものかと思う。

ヒゲが硬いと感じるのは確かだが、本当に髪の毛にくらべて硬いだろうか。短いために硬く感じるとか、生える角度によってそう感じるなどということはないだろうか。人間は錯覚をする動物であるから、こういうことは客観的に確認しなくてはならない。

そこで確認した。アメリカに来たばかりの頃、英語の会議があまりにもわからないので、ふと思いつき、ノートに毛を並べてデジカメで接写してその太さを比べてみたのだ。写真左から順に?ヒゲ、?髪の毛の濃い部分、?髪の毛のハゲている部分、である。結論。毛の太さの関係は、日常感じている通りであった。ヒゲは間違いなく直径が太い。本当に髪の毛より太いのである。それにひきかえ、ハゲ部分の毛の細いこと。われながら情けない奴である。ヒゲの太さの1/3ぐらいしかない。これは断面積、曲げ剛性にしたら1/9ということである。しかも長さも密度も少ないのだろうからこれでは薄く見えるのも道理である。ハゲるわけだよこれじゃ。