車中、「奥さんと口論になったとき、自分が間違ってたらすぐ認めるか?」とデビッドに聞いてみた。彼は「もちろん」と言った。どうしてそんなことを聞いたのかと言うと、どうも仕事ではそうは思えない経験をしているからなのだ。
赴任して間もない頃、デビッドが、ある商品の原材料が足りないという。一緒に確認してみると、単にその原材料の数え方の誤解であった。その商品は、原材料を多く使うモデルと少なく使うモデルがあるのだが、我々は、原材料の数量を表現するのに、あるモデルが何個できるかを基準に○○個と表現している。デビッドは、基準とすべきモデルを間違えて計算したので、原材料が足りなくなったように見えただけだったのだ。
これを私が説明すると、彼は「いや、言いたいのはそんなことじゃないんだ」と言う。なにやら紙を持ってきていろいろな図を描いて説明を始めた。「他に何かあるんだろうか」と思って聞いていると、「あるモデルに原材料がどれだけ使うかは、我々は○○gというように決めているが、誰かそれを実際にバラして測定して確認した人はいるか?」と始まった。どう考えても、最初の話と関係がない。こんな明らかな脱線をどうしてするのだろうか。「もしかしてこの人は、関係ない話をして自分の間違いをごまかそうとしているのではないか」と思い始めた。それにしてはあまりに露骨なので、そんなはずはない、何か意味のあることを言おうとしているんだろう思って我慢をして聞いていた。しかしどうも、そうではないことが薄々分かってきた。時間も経っているのでとうとう、「でも、それと基準モデルを間違えたこととは関係ないですよね」と言った。
彼は「お前、ロックが好きなら、レイナード・スキナードを知ってるか」とまた関係のないことを言う。彼によると、レイナード・スキナードは、飛行機事故によって全員が死んだのだが、その事故の原因は、そういう細かいことの確認を怠ったからだという。
うわ。か、関係ない。関係ないことを言ってごまかそうとしているのだ、この人は。これがアメリカ人なのか?!
ついにデビッドは、「製品をバラして原材料の量を測定しないかぎり真実は藪の中なんだよ」と言うに到った。何の解決にもならない・・・。
そこまで聞いてから私は「ところで、この製品の場合は、基準モデルで計算すれば原材料はちょうど合いますから問題ないですよね」と言った。デビッドはすました顔で「それはそうだ。お前は100%正しい」と言った。
ここまでくるのに、30分を費やしたのだった。これでは警察も「わかったからもう行け」と言いたくなるわけである。こんなデビッドが奥さんとの口論ではすぐに間違いを認めるとは信じられないのだが。