プールの監視員

大学1年から3年まで、夏場には仙台市営の「西公園プール」というところで監視員のアルバイトをしていた。監視員のもっとも重要な役割は、おぼれた人を助けることだ。初めは、溺れる人などそういないだろうと思っていたのだが、溺れる子供は毎日当たり前のようにいるという。自分におぼれている人の見分けがつくだろうかと思ったが、先輩が「大丈夫、慣れるとすぐにわかるから」と言い、実際そのとおりだった。

プールで溺れる場合、よく映画やドラマでみるようにバチャバチャ暴れたりしない。初めは溺れると思っていなくて、トントンと飛び跳ねながらだんだんと深い方に動いていって(プールの底は斜めになっているため)、だんだんと疲れてきて、顔を水面に出すタイミングが不規則に長くなったらまず間違いなく溺れているので、監視員の出番だ。

周りは子供たちがいっぱいでも、みんな自分が遊ぶのに忙しいし、おぼれている人の見分けなどつかないから、誰も気がつかない。仮に声をだしてもみんな絶叫しながら遊んでいるので聞こえない。自分のすぐ後で友達が溺れていても気がつかないのだ。

中には監視員をからかって溺れたふりをする子供もいるが、彼らは本物を知らないので溺れた真似も全然似ておらず、だまされることはない。

そんなわけで、溺れている人を見つけられるようになったときは「俺もプロになったな」と思ったものだ。一夏に何人を救助したかわからない。プールと言うところは、監視員がいなかったら何人溺れ死ぬか分からないところなのだ。

このアルバイトで、世の中の人間というものの幅の広さを知った。ある成人男性が、子供を抱っこしてプールに向かって小便をさせていたのだ。気がついたときにはもう遅いし、こういう方と話ができる自信はなく、無視させていただいたのだった。