デビッドのアドバイス

私は日本に住んでいたある時期から、仕事中はシャツの第一ボタンを締めることにしていた。理由は、襟元から出ているTシャツがあまりにヨレヨレでひどく、あるとき、女性社員から「みっともない」と指摘を受けたからだ。いずれのTシャツも卓球王国からもらったりマスターズの全国大会に出たときにもらったりで、それぞれに愛着があり捨てられないのだ。あるのに新しいのを買うのも嫌なので、結局、ヨレヨレのを着続けることになる。

そこで考えたのが、第一ボタンを締めてTシャツを隠すことだ。ネクタイをするわけではないが、印象もきちっとしたものになり、我ながら良い考えだと思った。

それで、ここドーサンでもひどいTシャツのときには襟を締めていたのだが、先日、デビッドから「やめろ」と注意を受けた。理由は、ネクタイをしていないのに襟を締めるのは女性のやることであり、これを男性がやるとすなわちゲイのファッションだというのだ。

私は初耳なので驚いていると、デビッドは「ネクタイをしていないのに襟を締めているファッションをどう思うか」とマーカス聞いてみせた。マーカスは「ビジネスマンらしい」と答えたが、デビッドが「その他の印象は?」と誘導すると、彼は笑いながらゲイの身振りをした。

なお、以前マーカスに指摘を受けたのが、このゲイの身振りについてだ。両手を顔の高さに上げて手のひらを正面にむけて左右に振る仕草だ。ちょうど、日本の皇族が民衆に向かってバイバイをするような小さな左右動を両手で顔の高さでやる感じだ。もともとは、女性がこのような仕草で会話をすることが多いことから来ているらしい。

あるときたまたま私がこういう動きをしたら「ゲイじゃないのならやめたほうがいい」と言われた。「ゲイじゃないなら」と但し書きをつけたところがいかにもアメリカ人らしい配慮だ。

彼いわく、顔より低い位置、高い位置でなら問題ないが、顔の高さで両手を振るとそういう意味になるので誤解を招くとのことだ。もちろん誤解じゃないなら問題ないわけだ。

なお、これとは別にゲイをあらわすサインのようなものもある。日本でならこれは片手を反対側の頬のところに当てる仕草だが、これに対応するのが、こちらでは片手を甲を上にして出し、手のひらを返すような動きを極めて小さくピクピクッと震わせるようにすることだ。手のひらを返すことが男性、女性の入れ替わりをあらわしていて、これが男性でありながら女性の役割をもっているというニュアンスらしい。「彼はゲイらしいぞ」ということを会話抜きに伝えたいときなどに、目配せしながらこのサインを出すらしい。

だいぶ寄り道をしたが、以上の経緯があり、最近、新しいTシャツを何枚か買い、シャツの襟を開けて仕事をしている。これなら文句はあるまい。