ノー・サンキュー

レストランなどで未だに困るのが、要らないときにいう「ノー・サンキュー」だ。こんなに簡単な単語が通じない。サンキューだけが聞こえるらしく、追加注文されたと思って料理などを持ってくるのだ。「追加注文しますか?」と聞かれる。要らないので「ノウ・サンキュー」というのだが、そのときの店員の「オーライ!」というセリフとニコッという笑顔に不吉な予感をしていると、だいだい料理を持ってくるのだ。

なんとかちゃんと断れないかと思い、「ノー」のところをきちんと「ノウ」といったり、強調したりしてみたのだが、かなりの確率で誤解される。もしかしてバカにされているのだろうか。

それで、ついにあるとき意を決して、サンキューをいわないという非常手段に出た。「ノウ」とだけ言うのだ。ちょっと失礼だと思うのだが、こうも度々無駄金を払わせられたのではたまったものではない。それで思いきって「ノウ」といったら、なんとコーラをもってきやがった。「コウク」と聞こえたものらしい。そんなに私の声は通らないのだろうか。いっそのこと、最初のNを強調して「ネオウ!」という具合にでもいってやろうかとも思うが、なんでレストランで喧嘩腰にならにゃならんのだ。

依頼、諦めて「ノー・サンキュー」に戻し、要らないんだということを念を押すように他の言葉や身振りで補完している。こんなに短い単語のいったい私の発音のどこが悪いのだろうか。その秘密を知りたい反面、不思議なことを残しておきたいような気もしていて、アメリカ人に聞いてはいない。