卓球にしかあり得ないボール

先に書いた台の外からコートの隅に入るストレートだが、よく考えるとこれは卓球だけにあるコースだ。似たようなネットを使う球技であるテニス、バドミントン、バレーボールではまずあり得ないだろう。なぜ卓球だけにあるかといえば、それはコートが小さいからだ。コートが小さいので、人間の動きでネットの外側にまで容易に移動することができ、打球もできるわけだ。

卓球の試合を面白く解説するためには、このような卓球にしかないボールを上手く説明できたらよいと思うのだがどうだろう。

さて、99ストレートは稀なコースではあるが、それだけでは返球不可能とまではいえない。しかし卓球には、原理的にほぼ返球不可能なボールが存在する。それは、ネット際のコートの外に落ちたボールをコートよりもかなり低い位置で打球し、ボールがネットの下または外側を通るようにすると、ボールの頂点がちょうど相手コートの台の高さくらいになって、ほとんどバウンドしない、または瞬間的に2バウンドをしてしまって相手が打球するチャンスがないボールというのが可能なのだ。もちろん、そのような打球点が相手から与えられること自体がアクシデントなので、そうそう狙ってできることではないが、ときどき起こることだ。このボールにも『ミラクルボール』とかなんとか名前をつけたいものだ。

下の写真はその実例で、左から順に『インパクトの瞬間』『上昇中のボール』『相手コート上で軌道の頂点を迎えたボール(バウンド前)』の様子だ。明らかに頂点がネットより低くなっている。この後、ボールはコートに極めて短時間のうちに2回バウンドし、相手は打球を諦めている。なお、映像の出展は、リフレックススポーツ社で、93年エーテボリ大会での増田選手のプレーだ。

この打球が可能になるケースは、相手からクロスに鋭角に来たボールがネットに触れてポロリとネット横に落ちた場合だ。私はこれをどうしても自分でやってみたくて、2番弟子の田村にバッククロスのつっつきを上手にネットできるまで延々とやらせて、見事、再現できた。田村が「そんなことやりたかったのか・・」と悔しがったのは言うまでもない。

もちろんこれも、コート面よりも下で打球することが可能な卓球にしかあり得ないボールだ。