夜中の恐怖心

いつの頃からか、眠りがけとか夜中に目が覚めたとき、強烈な恐怖心に襲われるようになった。それは、自分はいつか必ず死ぬという事実についての恐怖だ。初めてこれを思ったのは二十歳ぐらいのときだったろうか。以来、夜中に目を覚ますと、ときどきこういう心理状態になる。

そのときに考えることは、「人間は必ず死ぬ、自分がなくなる、こんな怖ろしいことにどうして今まで気づかず平気で暮らしていられたんだろうか、みんなもどうして平気なのだろうか、俺たちは全員いなくなるのに」というものだ。

しかしこの恐怖は、ひとたび目を開けて起き上がったりするとたちどころに消えてしまうし、もちろん日中にこのような考えになることはない。日中に死について考えても「寝るのと同じことだ。それなら毎日やってるじゃないか。そのときに後悔しないように楽しいことをやればいい。人類も動物も延々と死に続けてきたじゃないか。自分だけ特別に考える必要はない。」と思う。前向きだ。しかし夜中にはこう考えてもそうは思えない。だから「大丈夫、こう思うのは今だけだ。明日になれば恐怖はなくなる」と自分に言い聞かせるしかない。そしてそのうち寝てしまう。眠れなくなることはなく、必ずすぐに寝てしまうのだ。

だからこれは夜中の半分ねぼけた脳が作り出す特別な心理なのだと思う。

ただ重要なのは、夜中にこの恐怖に襲われるときでも、なんら事実誤認はないということだ。いもしない化け物が襲ってくるとか、確率が低い大地震を心配するとかではない。100%確実な死についての恐怖なのだ。ただ人によってそれが遅いか早いかだけの違いだ。なるほどこう考えると、むしろ平気で暮らしている人の方がおかしいといっても良いくらいだ。理屈で考えればこうなってしまうのだ。

だから何かの拍子に、こちらの考えの方が日常になったらそれこそ怖ろしいことになる。そうなったらもはやまとに生活はできないだろう。それほどの恐怖なのだ。もしかしてそういうのが続くのがうつ病なのだろうか。大変なものである。