ドラえもんは小学生のころから読んでいたのだが、近所にどうみてもスネ男そっくりの性格の同級生がいた。金持ちではなかったが、とにかくずるくて卑怯で、自分勝手なのだ。顔も似ていた。また、学年は違ったが、自分勝手で嫌われ者だがおもちゃだけは異常にたくさん親に買い与えられていて、みんながそいつのおもちゃだけを目当てに遊びに行くという奴もいた。おもちゃが多かったというところでスネ男と共通点がある。クラスにはジャイアンのように体が大きくて、暴力で他人を制御しようという奴もいた。
小学生の頃私は、こういう人たちはドラえもんを見ているときに、「ああ、自分はスネ男だな」とか「ジャイアンだな」と思っているんだとばかり思っていた。しかし、ドラえもんのストーリーはのび太が中心であり、のび太に感情移入するようにできている。スネ男やジャイアンは大げさに言えば悪役なわけだ(劇場用アニメではやけにいい奴になるところが気に入らない)。自分がその悪役に相当するのに、どういう気持ちでドラえもんを彼らは見ているのだろうかと思っていたのだ。たまに一緒に見る機会があったりすると、彼らが「俺のことをバカにしているマンガだ」と怒りださないかと気が気ではなかった。
小学生の浅はかさである。自分を卑怯ものだとか乱暴ものだとか思っている奴はおらず、それぞれがのび太に感情移入してドラえもんを見ているのだと私が気づくまでにはかなり時間がかかった。それどころか、自分も他人から見ればスネ男やジャイアンのようだと思われていない保障はないことも今では分かっている。
かつて、異常に短気でいつも怒鳴りまくっている上司がいて、誰がどう見てもジャイアンだったが、彼は自分をジャイアンだと思っていただろうか。いや、そもそも奴はドラえもんを見ないか。世代的にも。悪役レスラーというところか。