あらためて書くまでもないが、ワルドナーは卓球の天才である。25年も世界のトップ10にいて、5世代の中国選手に対抗し続け、現代卓球の技術を次々と塗り替えたなんてのはワルドナー以外にはいない。卓越した予測能力でほとんど歩いているようにしか見えないフットワークでことごとくボールに手が届く。まるでボールがくるところを知っているようだ。そのうえ脚力も肺活量も優れているものだから、誰よりもスタミナが続く完璧な肉体。
写真は最近発売されたワルドナーのスーパープレー集DVD(http://www.world-tt.com/video/d036.html)より、2004年アテネ五輪の柳承敏との男子シングルス準決勝の1シーンだ。柳がバックに捨て身で倒れこみながら回り込みながらワルドナーの逆をついてストレートにドライブを放った。ワルドナーはバック側にボールがくると予想してバック側に動き終わったシーンだ。このとき柳のボールはすでにネットを越え、ワルドナーのフォアを抜こうとしている。常識的に考えてここから間に合うはずがない。間に合ったとしても当てるだけかロビングするのが精一杯だろう。ところがワルドナーは、ほとんどボールを後から追いかけるようにして後方に移動しざまに、上半身と手首だけでラケットを出してギリギリのところでボールをとらえたばかりか、グニャリと曲げて柳のはるか遠くのフォアサイドを抜き去ったのだ。ボールの位置を見て欲しい。なんでこんなところにあるんだろうかこのボールは。バックに倒れ込みながら捨て身でドライブを放った柳はまだ画面の外だ。こういうファンタスティックなシーンって、卓球界広しといえども、ワルドナー以外には見られないのだ。
ワルドナーこのとき、2年前に足を骨折して復帰したばかりの38歳。凄すぎる。