銀河宇宙人大百科『大宇宙人』

先日、ある日本人赴任者の家に遊びに行くと、奥さんが2冊の宇宙人本を見せてくれた。もちろんこれは、私がオカルト好きなのを知ってるからであって、誰にでも見せているわけではなかろう。なんでも、父親がそういうのが好きで、まだ幼稚園児の孫娘にこういう本を「読め」と送りつけてくるのだという。それを熟読した娘は、今では幼稚園でお絵かきの時間にUFOから降りてくる宇宙人の絵を書くまでになったという。

見せられた2冊のうち、1冊はどうしようもないデタラメだけの駄本であったが、もう1冊は、大変興味深い本だった。なにしろ題名が怪しい。『大宇宙人』である。しかも表紙のデザインが完全にふざけている。ビートルズのアルバム『サージェント・ペパーズ』のパロディになっているのだ。どうして宇宙人大百科の表紙でビートルズごっこをしなくてはならないのか。著者のところには「目黒宇宙人博物館編」とある。目黒にそんな博物館があるのかと奥付を見ると、著者は目黒卓朗という人で、目黒宇宙人博物館の館長だという。やっぱりそんなことか(笑)。

中を読んでみると、メチャクチャ怪しい宇宙人の目撃談ばかりである。頭がメロンの形をした宇宙人やら、ラベンダーが珍しくて凝視した宇宙人とか、それが何を意味しているのかさっぱり見当のつかない頭の痛くなるような話ばかりだ。

ところが面白いのはここからだ。各宇宙人の目撃例の後に「宇宙人基礎知識」というコラムがあるのだが、そこに書いてあることは完全に正しい知識、つまり、宇宙人の存在を否定するような話ばかりなのだ。チャネラーだのコンタクティーの話は信用できない、アダムスキーはデタラメ、ミステリーサークルやキャトルミューティレーションも超常現象ではない、といった、身も蓋もない話が極めて明解に冷たく書かれている。ふざけた表紙と頭の痛くなるような目撃談とは正反対の正確な情報が書かれているのだ。

もしかするとこの本は、一見、オカルトバカ本を装いながら、安易に宇宙人の話に飛びつくオカルトマニアに真実を教育することを目的とした啓蒙的な本なのではないだろうか。しかし「ジャガイモ袋そっくりの宇宙人」の話の後で「エリア51の話はウソ」などと書いて、果たして効き目はあるのだろうか。なにしろこの二つの話、まったく並列に書かれているので、どちらか片方だけを疑う理由はないのだ。だから読者は、エリア51に宇宙人の死体が隠されている話はウソだけど、ジャガイモ袋そっくりの宇宙人の話は本当だと思うしかない。・・・なんだが、エリア51の方がまだマシのような気がする。