ロンの飛行機は何事もなく無事にフライトを終えた。ロンは飛行機仲間のエイドリアンという友人と一緒にドーサン空港に現れて、フロララ空港までの30分のフライトを楽しんだ。とても小さなボロボロの飛行機でかなり心配だったが、飛行は普通だった。ジェット機との大きな違いは、離陸があっという間だったことくらいだ。まだ自動車くらいの速度なのに数秒で離陸した。しかし急上昇というわけではなくて、ジェット機で感じられるような激しい上方への加速度はまったく感じられなかった。
飛行機の中はエンジン音で非常にうるさいので、3人ともヘッドフォンをしてマイクで会話をした。さすがに命がかかっているだけあって、離陸前にはチェックリストを見ながら何十個もの項目を二人で声を出して確認しあっていた。フライトの途中で、ロンが「後の席に俺が墜落したときの新聞記事があるから見ろ」とガハハと笑いながら言った(忘れてきたらしくて実際にはなかった)。
飛行機のほとんど最前列で前方を見たらさぞ感激するのかと思ったらそうではなくて、ジェット機の窓から外を見て「そっちに進んでいる」と思うのと違いはなかった。景色が動かないからなのだろう。運転席に座れば違うのだろうか。
飛行機は中古で250万円くらいで5人で共同で買ったという。ちなみに新品だとその10倍ほどだそうだ。空港の使用料は払わなくてもよく、無料だそうだ。
ロンに聞いたところによると、墜落したのは3年前で、離陸してまもなく故障のため急降下し、森に突っ込んだのだそうだ。墜落後、飛行機は火を噴いて炎が木の上まで上がったが、ロンと同乗者ふたりとも逃げて無事だったという。新聞には「奇跡の生還」と書かれたと得意気だ。足と腰にプレートを入れたが、病院を出て4日後にはもう飛行機に乗っていたという。「俺たちは転んでもすぐに起きて走る馬と同じだな」という英語の常套句なのかオリジナルなのかよくわからないことを言っていた。
ともかく、卓球をしていたおかげで珍しい経験をした。なお、エイドリアンは卓球をする人ではなかった。