マジックの見どころ

そういうことがわかると、テレビでマジシャンを見るときに、彼らが客を喜ばせるためにどのような戦略で演じているかを見るのも楽しくなる。

たとえば、前田知洋。これはもう徹底的に紳士的で、下手に出すぎるくらいに下手に出て客の好印象を勝ち得ている。クロースアップマジックの世界的名手であるにもかかわらず、そのプライドは微塵も出さない。ランス・バートンと同系統だ。

たとえばふじいあきら。彼はわざとけだるそうに自分はたいしたことないというそぶりで演じる。ゲストの客が「すごーい」と驚くと「すごいですよねー考えた人が」となげやりに言うことさえある。ふじいは大変なテクニックをもっておりプライドも高いに決まっているが、それを周到に隠して粗野を装って客の共感を得る戦略で成功しているのだ。

彼らが演じているマジックは彼らにしかできないというものではない。マジックショップでタネを売っていて誰でもできるマジックを演じることさえある。彼らを彼らたらしめているのは、客を楽しませるための演出と振る舞いであり、実はそれこそが最高のスキルを要する彼らの本当の「マジック」なのだ。