フォアに動きながら打球する練習は「フォアへの飛びつき練習」と言われて昔からあったじゃないか、なにを今さらと思う人もいるだろう。しかしそれは、「飛びつき練習」という言葉の示すとおり、1球だけ、よくて3、4球のセットでするものであって、あくまで左右のフットワークとは別のものとしてあったのである。
それに対して私の主張は、左右のフットワーク練習そのものを、従来の飛びつきのやり方、つまりボールの方向に移動しながら打球するやり方でやるべきだというものである。その時足を交差するか交差しないかはボールとの距離によるし、できるだけ交差しないで威力のあるボールを打つよう、その選択も練習の目的とするべきである。
従来の「飛びつき練習」がどうして定常的に左右のフットワーク練習としてやられなかったかといえば、動く範囲が大きくなってあまりに疲れて、続かないからだ。交差歩でフォアに飛びついた後にバックまで回りこみ、また交差歩で飛びつく、これがいかに疲れる練習か想像できると思う。しかし、これが実際の試合で起こることなのだ。疲れるからといって、試合で起こらない動きを作り出して練習をしたのでは本末転倒である。
バックへの回り込みも飛びつきと同様のことが言える。試合ではたいてい、バックに回り込みながら打球し、打った後は慣性でかなり余計にバック側に動いてしまう。また、それだけの強打をするからこそ回り込むのだ。従来のフットワーク練習のように、ボールが来る前に回りこみ終わって、フォア側へ右足を踏み出しながら打つなどということはカット打ちでぐらいしかあり得ない(余談だが、ある指導者が中国人指導者に、バックに回りこんでフォアに振られたらどうやって飛びつくのかと質問したところ、回り込むときは決めるときです。返される心配があるのにどうして回り込みますか、と言われたという。極端な表現ではあるが、フットワークといえば昔から長々とラリーを続ける我々日本人からすると、なんともハッとさせられる含蓄ある台詞ではないか)。したがって、バックへの回り込みも実戦と同じように、バックに移動しながら打球、すなわち「飛び回り込み」でするべきである。
以上、私の提案する新しい左右のフットワークは、実戦と同じく「飛びつき(交差歩かどうかはそのつど選択)」と「飛び回り込み」の連続でやるフットワーク練習である。ラリーを続けたいならボールを遅くするとか範囲を狭くするとか、いくらでもやりようがある。ただ、私の指導経験では、コースを決めるとどうしても先に動くようになり、飛びつき、飛び回り込みは自然にしなくなるのだ。だから結局はランダムコースが一番よいということになる。それでもラリーが続かないので練習にならないというなら、多球練習にすればよい。
そしてポイントは、この飛びつきと飛び回り込みフットワークを習得するのに、従来の「先動きフットワーク」は、その前段階の役割をなんら果たさないということだ。だから、それはいっさいやる必要がなく、初心者の段階からいきなり飛びつき飛び回り込みフットワーク練習をメインにやるべきである。
従来の選手たちが「先動きフットワーク」をやっていてそれでもちゃんと強くなったのは、もちろんそれとは別に飛びつき練習とかゲーム練習もしていたからだ。練習でさんざん「先動きフットワーク」をやって、試合でぶつけ本番で飛びつき飛び回り込みフットワークをやるのだから、さぞ効率が悪かったものと思われる。
市販のDVD付き卓球指導書のDVD9枚分のフットワークの部分を見てみた。思ったとおり、どの指導書も、基本のフットワークとして左右のフットワークをあげており、そのどれもが見事なまでに綺麗な「先動きフットワーク」であり、実戦で使う動きのフットワークを紹介していたのは、多田先生のDVDの後半の一部と、卓球王国『中国卓球の神髄』の一部「砕歩(細かい動き)」という項目で紹介されていたのみだった。
中国を含め、ほとんどの指導者の方々は、今も「先動き左右のフットワーク」を基本と考えており「飛びつき飛び回り込みフットワーク」はあくまでその応用と考えていることが伺われる。ここにも練習の進化のタネが転がっていると私は見る。