朝一番に、ブログの読者から「自分はペンホルダーでコーチに交差歩のフットワークを指導されています。裏面を使わないペンホルダーである柳承敏などのフットワークについてもぜひ分析をお願いします」とメールが来た。
もっともな疑問である。柳承敏ほどフォアハンド主体の選手なら当然、動く幅も大きいから交差歩を使う頻度は格段に多いことは容易に想像できる。
そこで、誰でも検証できるように、もっとも有名な試合である、2004年アテネ五輪の男子シングルス決勝の王皓戦の柳承敏のフットワークを調べて見た。そう、凄まじいフットワークで王皓を倒したあの試合である。
その結果、柳承敏がフォアへの飛びつきに交差歩フットワークを使ったのは、全6ゲーム中9回だった。その9回すべての画像が下の写真である。各画面の左下にカウントも入っているので、ご興味のある方は確認されたい。
なお、飛びついたけどまったく間に合わなくて入らなかった場合はすべて交差歩を使っていたが、それはカウントしていない。あくまで交差歩が役に立ち、入った場合だけをカウントした。また、ミスをした場合でも、間に合わないからではなくて別の理由でミスしたと思われる場合は交差歩を使った回数として数えた。
今回、柳承敏のフットワークを見ていて非常に面白いことに気がついた。移動中に足が交差している場合でも、跳躍中に右足が左足に追いつき、着地するときには両足が揃ってしまっている場合が結構あったのだ(右の写真)。また、左足が先に着地した場合でも、右足の送りが極めて小さく抑えられていることが下の写真からもわかるだろう。いったいどれだけの荷重がかかっているのだろうか。凄まじい脚力である。
6ゲーム118スコアのうち、9回の交差歩フットワーク。その比は8%だ。1スコアに平均2回フォアに飛びつくとすれば、飛びつきあたりの交差歩の使用比率は4%となる。これは多いのだろうか少ないのだろうか。9回とはいえ使っているのだから必要ともいえるし、ほとんどは交差しないフットワークを使っているのだから、交差歩の練習をするヒマがあったら交差しないフットワークを練習した方がよいとも言える。あるいはまた、交差歩フットワークは頻度は少ないけど難しいので、沢山練習しなくてはならないのかもしれない。それは読者の判断にゆだねよう。
ただひとつ認識して欲しいのは、交差歩は打球にとって決して有利に働くものではなく、大きく動くために仕方なしに選択するものだということだ。なるほど、歩くときや走るときの人間の手足の動かし方を考えると、フォアハンドを振るときには同時に左足を前に出した方が自然に思える(その起源はもちろん哺乳類の四足歩行だ)。しかし、左足を前に出すということは、その分だけ腰はフォアハンドのスイングと反対方向に回転することになり、フォアハンドの動作を妨害する方向に働くのだ(左足のつま先を打球方向に向けろというのも、腰をスウィングの方向に回転させたいという思想の現れである)。加えて右足の送りがあるために戻りも遅くなる。だから、使わないに越したことはないフットワークなのだ。