トイレットペーパーの謎

泊まったホテルのトイレに不思議なことが書いてあった。

「トイレットペーパーの使い切りにご協力ください」と書いてあるのだ。このホテルはベッドメイクを省略するとか歯ブラシは持参してくださいとか、環境に配慮したことが部屋中に書いてるのに、なぜかトイレットペーパーだけは「使い切れ」と言うのだ。原文が英語でその誤訳ではないかと思って下の英語を見るとPlease finish up a role of toilet paper in order to prevent wasting resources.つまり「資源の無駄を防ぐためトイレットペーパーを使い切ってください」と書いてある。どうしてトイレットペーパーを使い切ることが資源の無駄使いを防ぐことになるのだろうか。使わないとどうせ捨てられるので、それよりは無理にでも尻を多めに拭いたほうが無駄にならないという理屈だろうか。それだって無駄なことに変わりはないし、必要以上に使わないに越したことはない。

この不思議な気分を保つため、あえてホテルのフロントには聞かないで帰ってきたのだが、とうとう我慢できずにネットで調べてみて笑った。私と同じ疑問を持った人が質問していて、それに対する回答によると「客が入れ替わるたびにトイレットペーパーを新品に交換するのはやめますよ」という意味だと言うのだ。つまり、客それぞれに使い切ることをお願いしているのではなくて、ホテルの側から見て、客が使い切ってから交換しますよということなのだ。だから「使い切ってくれ」ではなくて「使い切ることに協力してほしい」となっているのだ。なるほど、そう言われればそうとれるが、一体どれくらいの人がこの意味を分かるだろうか。むしろ反対に「次の客が来る前に責任をもってすべて使い切ってくれ」と読めるではないか。

さらに英文では「どうぞ使い切ってください(Please finish up)」とはっきりと書いてある。ここには「毎回新品に交換していないので、半分くらいに減ったトイレットペーパーがあっても許してくださいね」というニュアンスはどこにもない。文章の読み手に向かって明確に「使い切れ」と働きかけているのだから使い切るしかないではないか。

おそらく英訳した人は完全に私と同じ誤解をした上でこの英語を書き、それを読んでいるはずの店員たちも誰一人それが正反対の誤訳になっていることに気がついていないのだろう。

首をかしげながら英文を書いた人と、「環境保護」のため、トイレットペーパを物凄い勢いで使い切ろうとしている外人客の姿を想像すると可笑しい。

「トイレットペーパーを毎回は交換しません」と明確に書けばいいものを、なんとか感じが悪くならないよう婉曲に書いた結果がこれである。過度の配慮は逆の結果を生むのだ。