いつも行く店で、非常に印象深い青年とお話をした。
その方は近所で花屋さんをやっているという。一応、人も雇っているので社長であるわけだから大したものである。ところが本人はそうは思っていなくて「花屋なんかやるもんじゃありません」と言う。起業は生活のために仕方なくやっているのであって、会社勤めできるのならそうしたい、毎月必ず給料が入ることがどれだけ素晴らしいことかと語った。
今でこそ花屋も軌道に乗ってこうやって飲み屋で飲めるようになったが、初めたばかりの頃はお客さんがつかず、注文のメールも電話も一本もない日が3日も続くと不安で不安で鬱病になりそうだったという。
なるほど、そういえばそうかもしれない。世の中の厳しさを知らず甘いことを言うものではないなと思った。私ももう51歳なので今さらその感想もおかしいとは思うが。
当然、花屋になった経緯を聞くことになる。彼は岐阜出身で、高校は先生に無理だと言われた進学校に合格したが、勉強することにどうしても意義を見いだせず中退したという。それである演劇を見に行ったときに、その舞台の飾り付けに痺れるものを感じて「誰がこれをやったのか」と関係者に聞くと、花屋の仕業だという。それで「これだ!」と思って花屋に弟子入りしたという。
その飾り付けをしたのが花屋ではなく別の業種の人だったらその業種に行ったと思うとのことだ。
ううむ。花屋さんがそういう芸術表現の一種だとは知らなかった。
弟子入りした花屋の師匠から「パリで国際的な展示会があるから行って勉強してこい」と言われ、喜んだらなんと自費でしかも週末を使って2泊3日だかの強行スケジュールだったという。うーん、花屋って特別厳しい。
彼の花屋はウエブサイトはなく安くもなく、デザインが気に入ってくれた人の口コミで成り立っているという。
花にはそれぞれ長持ちするものとそうではないものがあるので、ニーズに応じて仕入れ、保管する技術が経営上の重要な要素だという。
同時にこの方は大のパンクファンであり、特にクラッシュのファンだということだ。「高校中退→花屋」だから確かに生き方もパンクっぽい。
さて、卓球コラムニストはパンク的と言えるだろうか。言えないな全然。