台上バックハンドドライブの衝撃

卓球に詳しい人ならとっくにわかっていると思うが、ストップの解説のところで書いた「絶対安全ゾーン」は、実は現代では存在しなくなっている。

ネット際の低いボールでも強いドライブをしてしまう技術が登場したからだ。

それが台上バックハンドドライブだ。もともとはチェコのコルベルが開発した横回転の強いチキータが発端だったのだが、それを中国が強いドライブをかける技術に改良してしまったのだ。今ではこの台上バックハンドドライブもまとめてチキータと呼んでいるが、厳密な人は区別している。ただ、台上バックハンドドライブではいかにも長いのでここでは台上をDと略して「DBドライブ」と書く。

なぜこれが可能になったかといえば、ラケットを台にぶつけない制約の中で、上方へのスイング速度を上げる方法として、手首を使って打球前にラケットを180度近く回転させる方法(右利きの場合、ラケットの先端を時計の針の3時から時計回りに9時まで回転させて9時で当てる)を開発したからだ。これは腕の構造上、バックハンドだからこそできるものだ。

そんなことぐらい誰でも思いつきそうなものだが、重要なのは思いつくことだけではない。その先に栄光が約束されているかどうかわからない新しい技術を、才能のある選手が選手生命をかけてやって、実績で証明することが困難なのだ。ちょっと試して善し悪しの結論が出るのなら、スポーツの技術革新などあっという間に最終形態に行きついてしまうだろう。

しかしスポーツはそうではない。およそ100年前に守備全盛で始まった卓球が、攻撃優位になるのに50年かかり(日本の登場)、中国と日本のペンホルダー中心からシェーク攻撃が優位になるのに40年かかっている(中国のシェーク化)のはそのためだ。

そして、1960年以降、世界の卓球の技術革新をリードしてきたのが中国なのだ。1970年代には投げ上げサービス、1980年代にはボディハイドサービス、1990年代にはペン裏面打法、そして2000年代にDBドライブというわけだ。

なぜ中国がこれらの技術革新ができたかといえば、新しい技術を超一流の才能ある選手にやらせることができる人材、システムがあるからだ。日本のコピー選手を育成することが当たり前の中国だからこれができた。

それにしても中国が恐ろしいのは、新しい技術などなくても、その練習の質、筋力が他国を圧倒していて十分に強いのに、さらに技術革新をして勝利を盤石なものにしているということだ。まさに尊敬すべき大国である。

さて、絶対安全ゾーンを無にしてしまったDBドライブだが、実は弱点もある。バックハンドでしかできないことだ。それを得意としている丹羽がフォア側のボールをわざわざ大きく動いてバックハンドで打っているのはそのためだ。

今回、男子中国チームは日本に肉薄され、かなり焦っただろうことは間違いない。調子の悪かった張継科はラストで水谷に負ける可能性があったから、ダブルスをとっていれば日本が勝ったかもしれないのだ。

中国が新しい技術開発に着手しないわけがない。そこで考えられるのがフォア側の短いボールにドライブをかける、台上フォアハンドドライブ、つまりDFドライブだ。どうやるのかはわからないが「それか!」という方法でやってくるのではないだろうか。恐ろしいやら楽しみなやらである。

台上バックハンドドライブの衝撃” への 8 件のコメント

  1. なるほどなるほどー、DFドライブ楽しみですねぇ。
    その前にまずはDB逆チキータ改良版とかも出そうですねぇ。
    楽しみですねぇ。

  2. 馬龍のプレーも30年もすれば「古い」と言われるようになるんでしょうね。将来いったいどんな技術やプレースタイルが現れるのか楽しみです。
    漠然としたイメージですが、「フットワークがいい」とか「台上がうまい」といった“特徴のある”プレースタイルではなく、みんなどこでもなんでもできるようになっちゃうんだろうな、「プレースタイル」っていう概念がなくなるかもな、なんて思ったりします。

  3. 1950年代は日本が技術(含用具)革新の中心になっていましたね.
    スポンジラバー,表ソフト,裏ソフト,3球目攻撃,ループドライブ.
    中国の技術革新には他に,ぶっつけサ-ビス,粒高ラバー,ラケット反転を挙げるべきでしょうか..
    1960年代以降で中国以外の技術革新というと,アンチ,弾む接着剤(いずれもヨーロッパ)くらいしか思いつきません.

  4. ラバーの進歩が革新的なプレースタイルには影響はしてないのでしょうか?粘着系やらテンション系やら…
    スレーバーなんかでも中国選手はチキータをバンバン決めてしまうのでしょうか?
    条太博士、是非ご解明ください。そちらはゆうさんの専門でしたか?(笑)

    1. それは関係ないと私は見ています。仮に一枚ラバーでやるとしても、今の選手の打法が歴史上最良の打法だと思っています。
      さすがにコルク張りラケットとなるとどうかわかりませんが。

  5. 新しい技術といえば、伊藤美誠選手のフォアブロックのようなスマッシュですよね。
    ジョータ風にいうなら、フォアブロッシュでしょうか?
    いや、逆モーション的な技術ではないし、驚きの最新技術だと思います。
    アレを意図的に出せるなんて衝撃です。
    進化を続けると逆チキータをブロッシュからのカウンターをスマングなんてことが…。ないか。

    1. なるほどなるほど。しかしやはり最後はボールが入る確率ですから前進回転を高めるなんらかの方法が必要ですね。
      最後は前進回転がボールのスピードと安定性を保証しますので。

  6. DFドライブですが、シェークは難しいと思いますが、ペンなら、DBドライブと同じ原理で、できるような気がします。今、試しています。

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