マンガ『ピンポン』

NHKで松本大洋のマンガ『ピンポン』を取り上げた番組「ぼくらはマンガで強くなった」を見て、久しぶりにこのマンガのことを思い出した。

私はこのマンガにそれほど入れ込んでいたわけではないが、他ならぬ卓球が取り上げられていることが嬉しく、常に興味を持って見ていた。

リアルなところも良いが、なんといっても極端にデフォルメされた画が素晴らしかった。

たとえばこんなコマだ。1484447779512

この中段の版画みたいなタッチでかつ無茶苦茶に歪んだ画が筆舌に尽くしがたく素晴らしい。こんなコマを描けるマンガ家など松本大洋以外には考えられない。

ちなみにこのフォアクロスのカーブドライブに飛びついた風間は、なんと強烈なバックハンドを見舞って得点する(笑)。右利きなのに。

それを見た観客が1484450389133なんてつぶやいてるわけだが、強引とかそういう問題ではない。

「フォアクロスに来たカーブドライブに飛びついて強烈なバックハンド」

である。マンガだから無理なのはよいとして、そもそも意味のない行為なので、どちらかとえばコミカルな行動だと思うのだがどうだろうか。

もっともこの風間、当時としてもかなり時代遅れの極端なフォアハンドグリップ、ヘタすると一本差かと思うようなグリップなので、何をやらかしたとしても不思議ではない奴なわけだが。

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それにしてもこのマンガを見て思うのは、つくづく自分には全身に卓球が回ってしまっているということだ。おそらく一般人が気づかないようなことがいちいち目に飛び込んでくるのだ。

たとえばラケットの形だ。卓球人はラケットの形に敏感である。ペンの角型とペンの角丸、そしてシェークハンドは、少しでも面が見えれば明確に違うものとして認識される。横に並んだ二つの点を見ると人間の視線に見えるのと同じだ。

このマンガでは、シェークの選手のラケットがコマによってしょっちゅうペンの角型に変化してしまい、おかげでときどき誰なのかわからなくなってしまうのだ。

顔よりラケットを見ているわけだから我ながら重症だ。1484447876011

これがシェークのカットマンである主人公だ。床にぶつけてラケットが削れたわけでもなく、気分次第でこういう形になるのだ。おそらく一般人はこの変形に気がつかないのだろう。

さらに下のコマが、同じ選手を後から描いたコマだ。

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こ、これは・・・左利きペンドラのバックショート!(笑)。

思わずゼッケンを見直したが、これは間違いなく主人公である右利きのカットマン「月本」なのだ。

後姿の重心のかけ具合を見ただけで、利き腕とグリップと戦型と打法がわかってしまうのだから我ながら偉い。どこかにこの能力を活かせる仕事がないものだろうか。あるわけないが。

当時、私は松本大洋に、卓球を取り上げてくれたことに感謝しつつ、ラケットの形とこのコマについて手紙を出したが返事はなかった。変な奴に絡まれたと思われたかもしれない。

最後はラケット交換の様子だ。卓球人はラケットを相手に差し出すときはグリップを相手に向けるわけだが、これは相手が持ちやすいようにと気を遣っているだけではない。

「俺のラバー触るなよ!」という意志が入っているのだ。指の油がついて摩擦が落ちるかもしれないからだ。そのわりにときどき手で自分のラバーを拭く人もいるので矛盾するわけだが、人間のやることだから矛盾することはある。

これは何年か前の全日本の女子ダブルス決勝でのラケット交換の様子だ。自分のラケットを相手に手渡すときの典型的な動作だ。図1両者ともにラバーへの接触を最小限にしていることがわかるだろう。特に左側の選手は、周到にラバーへの接触を避けており、このまま相手にグリップを突き出している。ラバーを触るとしても右側の選手のようにできるだけ端をつまんで相手に渡す。全員ではないが、かなりの割合の人がこうした動作をするのだ。

ところが『ピンポン』では、全員が大胆にラバーを触る。このコマは、相手からラケットを受け取った後に自分のラケットを渡そうとしている場面だ。1484447890557ストーリーはさておいて「ああっ、そんなにベタベタとラバーに触って!」と思ってしまうのは私だけではないはずだ。上の写真のようにラケットを持つ選手なら誰だってそう思うだろう。

そんなこんなを思い出した番組であった。

こんなことばかり書いてると「うるさいから卓球人には関わらないようにしよう」と思われるだろうか。

でも仕方がないのだ。卓球ってそういうスポーツなんだから。

マンガ『ピンポン』” への 3 件のコメント

  1. こんばんは。度々お邪魔しますm(_ _)m。

    いやはや、
    「卓球を真摯なスポーツと捉え、
     リアリティを持って描いた」と評された
    『ピンポン』も、条太さんほどの
    ”目利き”にかかってはコテンパンですね(苦笑

    フォアへのカーブドライブに
    バックハンドカウンター・・・
    余程バックハンドで廻る特殊戦型かと思えば
    一本差しですか(-_^;)

    (この人指し指、マニアックに見ると
    王会元のグリップですね)

    故・長谷川信彦氏がご覧になったら
    「基本が~!」と長いお説教でしょうね。

    >こ、これは・・・
    左利きペンドラのバックショート!(笑)。

    間違いないですね(笑
    裏面の指を伸ばした斎藤清さんの
    ジャンピング・ショートそのもの・・・

    ラケットの形といい、ラバー触りといい
    松本先生も相当
    取材を重ねられたはずですが・・・
    卓球人の目には障ってしまうのですよね。

    卓球を題材にしてくれた
    松本先生には感謝ですが

    >でも仕方がないのだ。
    卓球ってそういうスポーツなんだから。

    ・・・同感です(^0^;)!!
    ”一般人”の認識にツッコミを入れ倒す
    ”マニア”代表として
    これからも条太さんに期待します☆

  2. 風間が強引にバックハンドを使ったのは、必要以上に高度な技術を使うことで、星野よりも圧倒的に強いということを示したいという気持ちがあったからという気がします。

    1. そうだと思います。しかしあまりに突飛なので私は可笑しく感じました。
      たとえて言えば野球でバットのグリップの下の方で無理やり打ってホームランにしたとでもいうような。

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