デイル・カーネギー『人を動かす』

久保さんは徹底的に自らの存在を隠してきた人だったが、実は久保さんがそうしてきたのは、持って生まれた性格ではなくて、明確な理由があった。

久保さんは東京生まれだが、戦争のため、小学校5年生の時に大阪に疎開をした。そこで東京弁を使ったものだから、文字通り何度も袋叩きに合うほど嫌われたそうだ。

そんなとき、ある本に出合った。デイル・カーネギー著『人を動かす』だ。その本はさまざまなエピソードの寄せ集めからなり、一貫して主張していることは、「主張するな、人を説得しようとするな、それこそがもっとも効果的に人の心を動かす」ということだった。

そこで久保さんは意識的に、自分のことを言わない、自慢話をしないと言ったことを徹底した。最初は意識してそうしていたが、次第にそれが自然に身につき、人格になった。それ以来、他人からの評価が劇的に変わり「話せば話すほど損だ」ということがわかり、その生き方を徹底するようになったという。

私にはとても実践できそうにないが、ともかく私もすぐに『人を動かす』を読んでみようと考えた。読むと言っても、昭和五年生まれの久保さんが十代の頃に読んだ本だ。今も売っているのだろうかと思って本屋に行くと、なんとショーウインドウに通りに向けて10冊以上も並べられているではないか。80年も前に出版されたのに、とんでもないベストセラーである。

直ぐに買ったことは言うまでもない。

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