小便飛ばし競争

息子たちの幼稚な振る舞いにあきれた妻がよく「中学男子ってこんな程度なの?」と私に聞くので、大体、以下のような話をすることになる。

中学一年のとき、学校の休み時間に小便飛ばし競争が流行った。当時の男子便所は小便器がなくて、ついたてで左右を仕切られて、床に溝が彫られた壁に向かって立って放尿する便所だった。コンクリートの壁に小便のあとが残るので、いつしか、その高さを競うようになってしまっていた。

そのためにわざと途方もない量の小便をためるやつや、飛び跳ねて記録を伸ばそうというやつがいたし、あろうことか助走をつけて失敗するやつまでいた(考えればわかりそうなものだが)。記録はどんどん伸び、ほとんどの生徒は自分の頭より高い記録を作っていた。40半ばとなった今では考えられない勢いだ。今でも覚えているのは、隣でがんばっていた友人の小便が方向を失い、ついたてを越えて私の正面に振ってきたことだ。このときばかりは、自分たちが便所の設計者の常識を超えた遊びをしていることを実感したものだった。

また、あるとき、その便所の小便だまりに赤のボールペンが落ちているのを発見した。聞いてみると、卓球部の阿部が落としたという。これを知った私は、阿部を驚かしてやろうと思い、汚いのを我慢してそれを拾って洗って机の上に返しておいた。親切心を装った高度なイタズラだ。阿部の反応を見たい気持ちが、小便を汚いと思う気持ちに打ち勝った瞬間であった。

このような話をするので、妻の苛立ちはますますつのることになる。