医学の進歩

ゼンメルワイスという19世紀の医師がいる。医師が手を消毒することによって感染症を防げることを発見した人だ。当時は、お産のときに多くの人が産褥熱で命を落としていた。出産するたびに死を覚悟していたのだ。出産しなくても結核にかかれば死ぬし、盲腸でさえ死の病であった。何百万年の人類の歴史で、今のように医学が進歩したのは、ほんのこの100年ほどのことなのだ。

ゼンメルワイスの時代には、そもそも細菌というものが発見されていないので、消毒するといっても、いったい何が手についているのかわからないし証明もできなかった。そこでゼンメルワイスは、目に見えない悪いものが手について、それが産婦を死亡させていると推定するしかなかった。それを示唆しているのが臭いだろうということで、カルキによってその臭いを消せばよいという理屈で消毒を始めたのだ。

ところが当時の医学会ではこれは証拠がないとしてオカルト扱いされて認められず、ゼンメルワイスは失意のうちに亡くなっている。「手を消毒する」こんな今では当たり前のことにさえ発見の歴史があり、それを知らないばかりに、それこそ数え切れないほどの人間が何百万年も延々と命を落としてきたのだ。それを免れている現代の我々を幸福と言わずなんといおう。私だって、もし現代の医学がなければ、18歳で自然気胸で死んでいたのだ。

こういう情報は私はもとから知っていたわけではなく、インターネットでつい最近知ったものだ。インターネットで歴史や科学の情報を検索していると時間がいくらあっても足りない。便利な時代になったものだ。

天国とはまさに今この時代のことだと思う。