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踏み絵

下に紹介した石川のフットワークは、指導者にとってひとつの踏み絵になると思う。

以下のような見解が考えられる。

①完全な手打ち。こういうときでもきちんと腰を入れて打てるようにしないと世界チャンピオンへの道は遠い。基本練習が足りない(これで世界チャンピオンになっても俺は認めないぞ)。
②完全な手打ち。やむを得ず基本から外れたあくまで緊急対応の打ち方であるが現代卓球ではこういう打ち方も必要である。しかしこれはあくまで基本ができた上での応用形であるから、最初からこういう練習をしては基本が身につかないのでいけない。
③手打ちだがこの打法も現代卓球の基本そのものなので、初心者のときから将来この打法に発展できるような練習が必要。

私はもちろん③である。さて、皆さんはどうだろうか。

石川佳純の飛びつき

石川はとにかく絶対に交差歩を使わないことで有名だが(私の中で)、それではバックの深いところからフォアを突かれたら、一体どうやって飛びついているのかを調べて見た。

下の写真は両方とも同じラリーであり、右の写真は左の写真を左右反転させて右利きの選手がイメージしやすいようにしたものである。特徴は、とにかく近い方の足の踏み出しが大きいことである。全盛時の江加良の回り込みを彷彿とさせる。そのあとで、さらにその足をもう一歩踏み出しながら打球をしている。

腰はほとんど回っていないが、両肩のラインは30度ほど回っているので、ひざ関節ではなく、腰から上のねじりで肩を回していることがわかる。もっと時間の余裕がないときは恐らく肩を回さず腕だけのスイングになることが予想される。相手のボールが速ければ速いほど、こちらのスイングに許される時間は短くなるし、また相手のボールのスピードを利用できるのでスイングは遅くて構わないわけだから、それがリーズナブルである。

これを我々一般人が参考にしようとすると、思い当たるのは、前進回転を打ち返すのは楽だが、切れた下回転などでフォアに振られた場合に、この程度の動きでボールが持ち上がるのだろうかという不安だ。それで、そういうボールが来たらどうするのかを調べて見たのだが、驚いたことに、誰の試合でも、そういうボールは来ないのだ。フォアに来るボールは、台上か、または前進回転の速いボールだけであり、我々がよくやるような、長いツッツキはフォアにいっさい来ないのだ。少なくとも先に分析した王励勤対馬琳、王皓対王励勤の全11ゲームを通して、そういう場面は1球たりともなかった。考えてみれば恐ろしい話だ。

というわけで、今のところ、その情報を得られないでいる。

飛びつきと飛び回りこみ 左右のフットワーク

フォアに動きながら打球する練習は「フォアへの飛びつき練習」と言われて昔からあったじゃないか、なにを今さらと思う人もいるだろう。しかしそれは、「飛びつき練習」という言葉の示すとおり、1球だけ、よくて3、4球のセットでするものであって、あくまで左右のフットワークとは別のものとしてあったのである。

それに対して私の主張は、左右のフットワーク練習そのものを、従来の飛びつきのやり方、つまりボールの方向に移動しながら打球するやり方でやるべきだというものである。その時足を交差するか交差しないかはボールとの距離によるし、できるだけ交差しないで威力のあるボールを打つよう、その選択も練習の目的とするべきである。

従来の「飛びつき練習」がどうして定常的に左右のフットワーク練習としてやられなかったかといえば、動く範囲が大きくなってあまりに疲れて、続かないからだ。交差歩でフォアに飛びついた後にバックまで回りこみ、また交差歩で飛びつく、これがいかに疲れる練習か想像できると思う。しかし、これが実際の試合で起こることなのだ。疲れるからといって、試合で起こらない動きを作り出して練習をしたのでは本末転倒である。

バックへの回り込みも飛びつきと同様のことが言える。試合ではたいてい、バックに回り込みながら打球し、打った後は慣性でかなり余計にバック側に動いてしまう。また、それだけの強打をするからこそ回り込むのだ。従来のフットワーク練習のように、ボールが来る前に回りこみ終わって、フォア側へ右足を踏み出しながら打つなどということはカット打ちでぐらいしかあり得ない(余談だが、ある指導者が中国人指導者に、バックに回りこんでフォアに振られたらどうやって飛びつくのかと質問したところ、回り込むときは決めるときです。返される心配があるのにどうして回り込みますか、と言われたという。極端な表現ではあるが、フットワークといえば昔から長々とラリーを続ける我々日本人からすると、なんともハッとさせられる含蓄ある台詞ではないか)。したがって、バックへの回り込みも実戦と同じように、バックに移動しながら打球、すなわち「飛び回り込み」でするべきである。

以上、私の提案する新しい左右のフットワークは、実戦と同じく「飛びつき(交差歩かどうかはそのつど選択)」と「飛び回り込み」の連続でやるフットワーク練習である。ラリーを続けたいならボールを遅くするとか範囲を狭くするとか、いくらでもやりようがある。ただ、私の指導経験では、コースを決めるとどうしても先に動くようになり、飛びつき、飛び回り込みは自然にしなくなるのだ。だから結局はランダムコースが一番よいということになる。それでもラリーが続かないので練習にならないというなら、多球練習にすればよい。

そしてポイントは、この飛びつきと飛び回り込みフットワークを習得するのに、従来の「先動きフットワーク」は、その前段階の役割をなんら果たさないということだ。だから、それはいっさいやる必要がなく、初心者の段階からいきなり飛びつき飛び回り込みフットワーク練習をメインにやるべきである。

従来の選手たちが「先動きフットワーク」をやっていてそれでもちゃんと強くなったのは、もちろんそれとは別に飛びつき練習とかゲーム練習もしていたからだ。練習でさんざん「先動きフットワーク」をやって、試合でぶつけ本番で飛びつき飛び回り込みフットワークをやるのだから、さぞ効率が悪かったものと思われる。

市販のDVD付き卓球指導書のDVD9枚分のフットワークの部分を見てみた。思ったとおり、どの指導書も、基本のフットワークとして左右のフットワークをあげており、そのどれもが見事なまでに綺麗な「先動きフットワーク」であり、実戦で使う動きのフットワークを紹介していたのは、多田先生のDVDの後半の一部と、卓球王国『中国卓球の神髄』の一部「砕歩(細かい動き)」という項目で紹介されていたのみだった。

中国を含め、ほとんどの指導者の方々は、今も「先動き左右のフットワーク」を基本と考えており「飛びつき飛び回り込みフットワーク」はあくまでその応用と考えていることが伺われる。ここにも練習の進化のタネが転がっていると私は見る。

規則的フットワーク練習の落とし穴

交差歩フットワークの良し悪しについてはまずは置いておいて、今日は規則的コースのフットワーク練習の間違いについて書きたい。先月号の卓球王国に書いたことそのままだが、実例を使って示そうと思う。

言いたいことは、日本で昔からやられていて今も続いている規則的コースのフットワーク練習は、規則的であるがゆえに実戦で使わない動きになっていて、基本になっていないということである。実戦では、ボールが来た方向に動きながら打つのに対して、規則的コースの練習では、ボールがくる前に動き終わり、次の位置に移動しながら打つので、体の動きがまったく違うのだ。左右に動いてボールを打つという意味においては同じだが、やっていることがまるで違う。

もちろん、コースを決めていても実戦と同じように動けば練習になる。しかし、通常、コースを決めるということはその分だけ簡単なはずなので、したがってノーミスでラリーを続けることが練習のひとつの目標になるのだ。動きながら打ったのでは慣性のために余計に大きく動かなくてはならず、疲れすぎて続かないのだ。したがって先に動いて次の位置に戻りながら打つことで動く範囲を小さくし、長時間の練習に対応することになるのだ。

タマスから出ている柳承敏のビデオで彼の練習を確認したら、まさしく「次の位置に移動しながらのフットワーク」となっていた。フォア側への動きもバック側への動きも実戦ではまずあり得ない動きになっている。ただし、飛びつき練習だけは規則的だけれどもちゃんと実戦と同じ動きになっていた。交差歩だから当然である。
ビデオでは柳承敏はフットワーク練習を毎日1時間やると言っていたが、そのうち半分以上は実戦で使わない無駄な練習(実戦的な練習より効果が劣るという意味である)になっているので、彼にはそのままやらせておいて、そのスキに我が日本チームは100%実戦的な練習をしようではないか。

一方、同じくタマスから出ているボルの練習ビデオを見た。ボルの練習は柳承敏とはまったく違ってランダムコースの練習が多く、フォア側のボールをフォアに移動しながら打球する実戦そのもののフットワークであった。規則的な練習もあったが、その動きは柳承敏よりは実戦に近く、打球時に慣性で左足を送る打ち方だったが、それでもやはりランダムコース練習とはかなり違って、ボールが来る前に動き終わってテイクバックをする打ち方だった。

あの記事を書いてから編集部を初め何人もの卓球人と話したが、この「次の位置に移動しながら打つ練習は無意味だ(練習効果が少ない)」という結論はなかなか受け入れがたいもののようである。しかしどんなに歴史があろうとも、柳承敏がやっていようとも間違いは間違いだ。実戦とまったく違う動きは基本ではあり得ない。そのような練習は1本もする必要はなく、卓球を始めたその日から、動く練習はすべからくボールが来た方向に移動しながら打つ練習にしなくてはならないと私は考える。

交差歩フットワークの結論(わけが分からなくなってきた)

ここ数日、交差歩の回数を数えてきたが、先に書いたように、交差歩とそうではないフットワークは動く大きさの違いにすぎないのであって、その境目はあいまいなものであった。実際、交差歩かそうでないか迷うような中間のフットワークも見られた。だから、分類してみたことにどれほど意味があったのか分からなくなってきた。

さらに、交差歩をすると腰がフォアハンドの動きと逆に回るので不利なはずだとも書いたが、実際に自分でやってみると、交差した方が楽に肩が回るような気もする。なぜそうなのか考えてみるに、上半身を回すためには右足で床を蹴らなくてはならないので、右足を床につけておく必要があるからではないだろうか。しかし私が交差歩に慣れているからそう感じただけかもしれない。なにしろ今回やってみて初めて私は飛びつきは交差歩しかできないことがわかったのだ。交差しないで飛びつくのは大変にやりづらく疲れた。筋肉も痛いしドタバタして足の裏も急に痛くなって豆ができた。

私にとって交差しない飛びつきがこれほどやりにくいにもかかわらず、試合は有利に運べたのが驚きであった。具体的にどういう違いとなって現れたのか分からないので偶然かもしれないが、ともかくしばらくは続けてみたい。

王皓のフットワーク

同じく、2009年横浜大会男子シングルス決勝の王皓のフットワークを調べて見た。
4ゲーム80スコア分だ。

王皓が交差歩のフットワークを使ったのは7回であった。スコア比は8.8%である。
ご覧のように前陣といえる位置で交差歩を使ったのはほとんどない。しかし、そもそも王皓はほとんど台の真ん中で両ハンドを振っているのだからそれも当然である。

考えてみると、交差歩を使うかどうかは、基本のプレー位置とリーチの長さによっているだけのような気がしてきた。現代卓球で交差歩が少ないように見えるのは、両ハンドスタイルが流行していることの現れに過ぎないようにも思える。

また、写真右は王皓の典型的な交差しないフットワークだが、交差歩との違いは左足の滞空距離が短いだけであり、基本的には同じもののような気もする。

つま先の向きをボールに向けるというのは無理なことだとして、交差歩自体が古いとかダメだというのはちょっと違う気がしてきた。やむを得ず大きく動くときには交差歩は必要だが、そもそも大きく動かなくてはならないような不利な卓球をしない方が良いということかな。そして、いつもそういう大きく動く卓球をしていると、必要ない短い移動のときまで交差歩を使ってしまうのかもしれない。これは推測で確証はない。

王励勤と馬琳のフットワーク

2009年横浜大会男子シングルス準決勝、王励勤と馬琳のフットワークを調べて見た。
7ゲーム134カウント分である。

その結果、交差歩の回数は次のようになった。ただし、追いついて入ったかまたは入りそうだった場合だけをカウントした。打ち抜かれるような場合には交差歩なのが当たり前だからだ。

王励勤  2回(スコアの1.5%)
馬琳  26回(スコアの19.4%)

王励勤は背が高いこともあり、交差歩を使ったのはたったの2回で、そのうち1回は逆を突かれて後に動いたケースだった(写真左)。

馬琳は普段の印象どおり交差歩が多かった。ただし、26回のうち、10回は、ロビングを含んだ中後陣でのものであり(写真中央)、いわば交差歩を使って当然のケースである。前陣で交差歩を使ったのは16回(写真右)であり、これだとスコア比は11.9%となる。私がどの程度の位置を前陣と分類したかは写真を見て各自判断されたい。裏面を使う馬琳が柳承敏より多くの交差歩を使うのは意外といえば意外である。

こうなると「交差歩は現代卓球にそぐわない」という持論が怪しくなってきた。もっともどちらにしてもある状況では交差歩が必要なことは間違いないのだが、問題はそれをメインのフットワークとして練習するのが効率が良いかどうかだ。馬琳でも1ゲームに4回しか使わないのだから、どう考えてもメインに練習するべきものではないような気がする。

理不尽な指導

卓球の指導の現場で、理不尽な場面に出くわすことがある。それは、指導する側が、事実と違う動きをアドバイスすることだ。指導者自身がやっているように選手にやらせようとするのだが、実は指導者自身が自分が実際にやっていることを認識できていない場合があるのだ。

私が初めてそのような体験をしたのは、卓球を始めたばかりの中学生のときだ。ツッツキ打ちに対して先輩が「上から打て」とアドバイスしたのだ。そして私にそのように強制をするのだが、自分が見本を見せる打ち方はどうみても下から上に振っているのである。こういうのが非常に困るのだ。

横上回転のサーブはこうやるんだ、と言ってインパクトの様子をスローで見せたりするが、実演すると全然それと違ったりする。しかし指導する方は、自分はそのスロー演技の通りやっていると思い込んでいるので、選手がそのようにやらないと怒るのだ。これはキツイ。

もし皆さんがそのような指導をされたら「これはたまたまそう見えるだけで、本当はちゃんとできるんだろう」などとは思わないで「この人は自分がやっていることを認識できていないんだな」と思うべきであり、それを指摘するしかないだろう。その結果、袋叩きにされるかもしれないが責任は持てないので悪しからず。

卓球指導書の検証

左右のペアのダブルスのコース取りと、シェークのグリップについて、最近の指導書を検証して見た。

その結果、ダブルスのコース取りについて、近いことを書いていたのは松下浩二の『勝つ卓球!!』(卓球王国刊)だけだった(卓球王国のでよかった)。『最強の秘密』より徹底していない現実的なコース取りのため、印象が薄れる書き方になっている。

シェークハンドの手首の曲げについて書いてあったのは一冊もなく「自然に握ること」とあるだけだった。それどころか、ある本には「手首は曲げないこと」と書いてあるのに、見本の写真には曲げた手首の写真に直線が引いてあった。どうも日本人には真っ直ぐなものに対する信仰のようなものがあるのではないだろうか。

その他、複数の指導書に交差歩のフットワークが載っていて、左足を打球方向に向ける、実戦で使わない「模範プレー」が踊っていた。