宮根さん

宮根さんという同僚がいる。私の半年ほど先に赴任してきた人で、歳も同じだ。この人がこれまた大変なビートルズファンなのだ。ファンになったのは私より遅く、社会人になってからだという(フフ、勝ったな)。村上春樹が小説『ノルウェーの森』を書くとき、ホテルに閉じこもってビートルズの『サージェント・ペパーズ』を200回以上聞きながら書いた」というのを読んで、そんな回数を聞くに堪える音楽とはどういうものかと興味を持ったのがきっかけだったと言う。

それで飲み会のたびにビートルズの話になるのだが、みごとなくらい曲の好みが食い違う。私はジョン・レノン派なのに対して宮根さんはポール・マッカートニー派なので、ハナから話が合わない。「これがわからないようじゃ、ビートルズをわかってないってことだな」とお互いに思っているのだ。こういうファンのあり方もまたビートルズならではの懐の広さを表しているのだ。

先日宮根さんの家に行ったら、玄関を入ってすぐのところに『アビイ・ロード』をあしらった額が飾ってあった。よく見ると縁の黒い部分をマジックで塗りつぶした跡がある。「本物のLPを使って作ったんで、中にレコードがそのまま入ってます」と誇らしげだ。

中学、高校のころはLPを買うということは大変なことだったが、大人になってお金を自由に使えるようになるとこんなことも平気できるのだ。大人になってよかったとつくづく思う。