今回ほど試合中に笑顔を見せる福原を見たことがない。見る人によっては「勝つ気がないんだろう」と思うかもしれない。私もああいう試合態度は好みではなく、感情的にはそう思った。
しかし理性ではそうではないことを知っている。選手は観客によく思われようとして試合をしているわけではない。福原は4歳の頃から15年間、自分の24時間を卓球に捧げてきたのだ。その彼女が「勝つ気がない」などというのは何もわからない観客の勝手な感想に過ぎない。高校や大学のふがいない後輩たちを論じるのとはわけが違うのだ。しかも相手の張怡寧との技術の開きがどれほど絶望的であるかを知っているのも本人なのだ。
シドニーオリンピックの決勝でワルドナーが最終ゲーム、孔令輝に点を離されたことを指してインタビュアーが「集中力が切れたのか?」と聞いたとき、ワルドナーが「オリンピックの決勝でそんなことがあると本気で思って聞いているのか?」と憮然として聞き返したことを思い出した。
厳しい顔をしたら勝つ可能性が少しでも高いなら誰でもそうする。簡単なことだ。ろくに練習もしない中学生にもテレビを見ている素人にもできる。しかし事実はそうではない。精神的な堅さがちょっとでも指に強い力を与えればそれだけでボールは入らなくなるのが卓球だ。なによりもリラックスが必要なのだ。福原の笑顔は、結果的にリラックスにつながり、張怡寧戦の3ゲーム以降は素晴らしいプレーの連続で、明らかに自身最高のプレーを見せた。それでも張怡寧の方が上だっただけのことだ。
素晴らしい試合だった。ありがとう愛ちゃん。
ひとつだけ心配なのは、あまりにすっきりした顔をしているので、まさか燃え尽きて19歳で引退ってことはないよね・・・ということだけだ。これだけは我々の願いを聞いて欲しい。