訛りの続き

訛りの話が琴線に触れたようで、ゲストブックやらメールやらでコメントをいただいた。

田舎者が方言を直すのでもっとも難しいのがアクセントであることは論を待たないが、意外な落とし穴が、標準語と別の意味で使われている方言だ。この場合、そもそも方言だと思っていないわけだから、直せるはずがない。

中学生のとき、クラスで厳美渓という観光地に遠足に言ったことがある。学校に帰ってきてから国語の時間に短歌を書かされたのだが、そのときにある友人が書いた短歌が次のようなものだった。

『厳美渓 川の間をスルスルと だんご走るよ カネ痛ましく』

厳美渓では、川に渡したロープで名物のだんごを渡すパフォーマンスがあり、友人はそれを歌にしたのだ。問題は最後の部分の「カネ痛ましく」だ。痛ましいと言えば標準語では、「痛ましい事故」などのようにかわいそうというような意味だが、実は私の育ったあたりでは「もったいない」という意味で、とくに金銭についてよく使われる言葉なのだ。つまりこの友人は、だんごを買ってみたはいいが、金がもったいなかったと悔やんでいるのだ。

天然記念物に指定された名勝地まで行って感じたことが「金がもったいない」というこの友人の心がけがなんとも可笑しい。さらに言葉も間違ってるのがよけいに可笑しくて今もこの短歌を忘れられない(そもそもその可笑しさがわかって注目したのは私だけだったはずだ)。いかにこの友人が短歌など書きたくなく、またその素養もなかったかがよくわかる。たぶん本人は全然覚えていないだろう。

ちなみに、実際には我々は「痛ましい」などとは言わず「いだます」としっかりと訛って発音している。これをちゃんと標準語風に「痛ましい」と書いたところまでがこの友人の能力の限界だったわけだ。

そういえばこいつも卓球部だった。