月別アーカイブ: 7月 2010

卓球クリニック

ドクター・チョップ(カット博士)ことロナルド・ピータースのことは、このブログや雑誌に何度も書いたことがあるが、先週末、彼の家に泊りがけで行って卓球をしてきた。彼の家に行ったのは、10年前に出張で来たとき以来だが、あまりにインパクトの強い体験のためにときどき思い出さざるを得ず、10年ぶりなのに懐かしいというよりはどちらかというと「また来てしまったか」という、うんざりした気持ちになったのが可笑しかった。

私は卓球をする情熱はもうないのだが、今回、彼から「生徒を集めて1泊2日で卓球クリニックをやるので、コーチとして来てほしい」という申し出を受けたのだ。日当まで払うという。ピータースは72歳で、しかももう10年も癌を患っている。今年の3月頃には「4月から放射線治療を始めるのでもう卓球はできない」と言うので最後のプレーのつもりでスタンの家で卓球をしたぐらいだ。そのピータースがまだ元気で、今なお私から卓球を習いたいというのだ。どうしてこれを断ることができよう。レッスン料などいらないと、喜んでピータースの家に行ったのだった。

とにかく彼の家は凄い。外見は寂れているのだが、家の中は彼の好きなもので溢れていて、彼がいかに好きなことを好きなだけやって生きてきたかがよくわかる。しかもピータースはその「好きなこと」が多いのだ。卓球、鉄道模型、銃、ナイフ、オーディオ、古銭集め、そして家中を埋め尽くす本、本、本。今も現役の歯医者なので、お金には困らず、欲しいものはどんどん買うのだ。それらを少しづつ紹介していこうと思う。再来月の卓球王国の記事もピータースのことを書こうと決めている。

彼の家に入ると、食堂、台所、リビングと一直線に通ることになる。そしてリビングの右側にガラス越しに見えるのが彼の自慢の卓球場だ。写真中央がリビングから卓球場を見た様子だ。

納豆とウニ

同僚のスティーブが、いかにも得意気な顔で私に聞いてきた。「前から一度聞いてみたかったんだけど、日本人は納豆が腐ったのをどうやって判断するんだ?」とのことだ。もちろん、自分が納豆を嫌いなもんだからわざと皮肉でこんなことを言うのだ。私は「腐っても臭いでは分からない。もともと腐ってるといってもいいかもしれない。賞味期限はあるけどそれは美味しく食べられる目安であって、古くなった納豆を捨てた経験はない。」と言った。

また、日本でも地域によっては納豆を食べないところもあるので、好き嫌いは人種ではなくて小さい頃から食べていたかどうかで決まるのであり、スティーブも日本で生まれ育ったらきっと納豆を食っていたはずだと言うと、「俺はそうは思わない」と言った。思い込みが激しいようだ。

次に、ホヤとかウニの話になった。私はホヤは嫌いだが、ウニは好きだ。20歳ぐらいまでは生臭くて嫌いだったのだが、あるとき、高級なウニを食べたらまったく生臭くなくて食べられ、そのコツが分かると安いウニの味も楽しめるようになったのだ。

私が「新鮮じゃないウニは臭いけど、新鮮なウニは臭くないんだ」と言うと、スティーブは「女と同じだな」と言った。同じ部屋の10mぐらいはなれたところに女性もいたのだがいいのだろうか。だいたい、古い男も臭いのは同じだし。

バーベキュー

夕方は、足立さんの家でバーベキューをご馳走になった。

奥さんに加えて、すでに独立している息子さんが同棲中の彼女を連れてやってきて、にぎやかなものとなった(そういえばこの日は7月4日、米国の独立記念日だったのだ)。

足立さんの息子さんはヨシヒトといい、フルネームはヨシヒト・アダチである。半分は日本人であることを忘れないように名前だけでも日本人らしくしたかったのだという。

日本に住んでいる日本人が子供に英語っぽい名前をつけたり、ロックハンドの人たちがこぞって英語っぽい芸名にするのと見事に対照的だ。

ちなみに、足立さんは大阪で今の奥さんと結婚したのだが、アメリカに移住したのは、日本ではハーフが珍しい存在なので、子供がなにかと目立っていじめられたり逆にチヤホヤされたりして普通に育たないことを懸念してのことだという。アメリカならハーフやクォーターは当り前にいるからだ。

翌朝、6:30の飛行機に乗るため、3時に起きて足立さんに空港まで送ってもらい、別れを告げた。足立さんは記念に借りていたオレンジ色の帽子をくれた。

このようにして、私のロサンゼルス2泊3日旅行は終わったのだった。一番面白かったのが卓球、次がレンタルビデオ屋の閉店セール、最後がユニバーサルスタジオの3Dキングコングである。『サイコ』のベイツ・モーテルはどこいった?という感じである

寿司屋「わさび」

ユニバーサルスタジオの外には、楽しげなみやげ物屋やレストランが並んでいて、歩くだけで楽しい気持ちになれる。ここなら入場券を買わなくても来れるので地元の人には良いのではないだろうか。

寿司屋もあったが、その店名は「わさび」だった。えらい寿司屋もあったものだ。

ひととおり通りを往復してユニバーサルスタジオを後にした。

帰路、ロサンゼルスらしい景色が広がった。

ウォーターワールド

この後、3D映画の『シュレック』を見て二人とも寝た。ああいう、ムーミンみたいな「お前らいったい何者よ?」と言いたくなるような登場人物だと物語に入り全然込めず眠くなるのだ。さらに『ホラー館』に入ったら日本にもよくあるお化け屋敷で苦笑(幽霊も化け物もいないことの方がずっと恐ろしい)。さらに『3Dターミネーター』でまた寝た。これは英語が分からないためだと思う。3Dターミネーターは、3D映像とスクリーンの前にあるセットと人がうまく切り替わり、あたかも3D映像が現実世界かのように錯覚させる素晴らしいものだったが、それでも寝てしまった(足立さんなど暗くなったとたんにゴーゴーと息を立てて眠り、クライマックスの爆発音で起きる始末だ)。日本語でもう一度見たいものだ。

あと、動物が芸をやるショー。鳩、鷲、豚、猫、チンパンジーなどを上手く調教し、面白い芸をやっていた。映画には何の関係もないように思われた。

ユニバーサルスタジオの一番人気のアトラクションは『ウォーターワールド』だ。海辺の製鉄所のようなセットの中で、役者たちが爆発や炎の間を縫って水上バイクに乗ったり高いところから飛び降りたりの寸劇をやるのだ。この炎の量が凄くて、観客席で見ていて顔に熱を感じるほどだった。登場人物の海賊たちはやけに悔しがったり啖呵を切ったりしていたがよくわからなかった。これも英語のせいだろう。ただ、仮にストーリーがわかったとしても、アクションはただのアクションに過ぎないので、「疲れるだろうな」と思うだけである。

こうして優待券のおかげですべてのアトラクションを回ったのだが、結局、もっとも面白かったのは最初のスタジオツアーだった。私が期待していたのは、映画づくりの裏側を見たり、映画の中に入ってしまったかのようなファンタジーを体験することだったのだが、ほとんどのアトラクションはちょっと映画にちなんだだけの普通の遊園地だった。そういうのが好きな人にはいいだろう。もともとそういうのは好きではない私が、来て文句を言っているのはお門違いなのだろう。ディズニーランドも「大人が見ても絶対楽しいから行ってみな」と何人もから言われているが、やはりやめておいた方がよさそうだ(隣のフロリダ州のオーランドというところには、わざわざ日本から来る人がいるほど大きなディズニーランドがあるのだ)。

The Mummy(ハムナプトラ)

ジュラシックパークの隣にはThe Mummyというアトラクションがあった。エジプトのミイラをテーマにした映画で、後で邦題を調べたら『ハムナプトラ』というらしい。パンフレットを読むと、真っ暗闇の中で前後左右に激しく揺れる乗り物だということで、またいたずらに物理的に激しいだけの乗り物だ。私はそういうバカバカしいのは嫌なので、乗らないつもりだったが、足立さんが「違うかもしれない」と言うので乗ってみた。

最初こそ、暗闇にミイラや棺おけなどが登場したが、すぐに真っ暗になり、突然前方に体験したことがないほど凄まじい急加速をした。足立さんに借りた帽子が頭から脱げるほどの加速だった。そして上下左右にもまれてから急停止し、今度はこれまた凄まじい加速でバックをされて、あっという間に終わった。45秒くらいだったと思う。

私は乗り物酔いしやすいので、座席から降りる前にはもう吐き気に襲われていた。1分もかけずに人を具合悪くさせる恐ろしい乗り物だった。当然、面白くもおかしくもない。ただ不愉快なだけだった。このあたりから、どうも私はもともと自分が嫌いなものばかりあるところに来てしまったことに薄々気づき始める。

出口で、暗闇でフラッシュを焚かれて撮影された写真が売っていた。「買うものか」と思ったが、意外に面白い写真だったので買ってしまった。そういえば隣の足立さんは乗っている間中ずっと「うわーっ」と思いっきり叫んでいた。足立さんもこういうのは大嫌いだそうだ。二人で嫌いな乗り物に乗って文句を言っているというわけだ。店員には間違いなくカップルだと思われたはずである。

ジュラシック・パーク

こうして45分間のスタジオツアーは終わった。昼食にチリドッグを食べて、こんどはパンフレットにも大々的に宣伝が書いてあった『ジュラシック・パーク』だ。かなりの人だかりで、内容的にも子供に一番人気があるように思われた。

ここでも優待券が威力を発揮して、ほとんど並ばずに乗った。これはボートとジェットコースターを合わせたようなもので、最初に高いところに運ぶところだけ動力を使い、あとは水の流れに沿ってコースを回り、最後に25mの急角度の坂(滝と表現していたが、それでは死んでしまう)を滑り落ちて水しぶきでびしょ濡れになるというアトラクションだった。

私はジェットコースターのようなものは実はさっぱり面白くない。怖いことは怖いが、怖いのが嫌だというのではない。ただ面白くないのだ。じゃあ何を期待して乗ったのかと言うと、本当の原始時代に迷い込んだような不思議な気持ちになることを期待したのと、あとは「せっかく来たんだから」というのと「これだけ人気があるのなら面白いに違いない」という考えだった。

結果は・・・ごらんの通りだ。確かにボートの周りには恐竜がいて、なぜだか口から水鉄砲の水が出て客にかけたりしたが、あまり面白くない。最後は急角度の坂を落ちてずぶ濡れだ。足立さんと二人で無言でボートを降りたのだった。写真の表情がすべてを物語っている。

飛行機事故

次はどういう映画か知らないが、墜落した飛行機のセットだ。飛行機がぶつかって壊れた家やひっくり返った車もあった。本物の飛行機を使って作ったらしい。迫力は凄いが、なにしろ現実にあることだけに、リアルすぎて少し嫌な気持ちになった。まあしかし、本当の墜落ならもっとバラバラになり、これは映画的なウソなのだろうとは思うが。

『ノルウェイの森』

ヤフーのニュースを見ていたら、村上春樹の小説『ノルウェイの森』が原作の映画にビートルズの『ノルウェイの森』を使うことが決定したという。極めて異例なことだ。ビートルズ側も村上春樹の実力とステイタスを認めたということなのだろう。

『なんでも鑑定団』で『ヘルプ!』を使うのもはやりビートルズの許可を得たのだろうか。あの番組は私も好きだが、私がビートルズでもっとも好きな曲を何の関係もない番組に使われるのは嬉しくはない。

ところで、先のヤフーのニュースに面白いことが書いてあった。ビートルズの「ノルウェイの森」の原題「Norwegian Wood」のWoodは森ではなくて材木であり、「Norwegian Wood」とは「ノルウェー材の家具」という意味である(歌詞を見ればそういう意味で使われていることが分かる)。ヤフーのニュースによれば、80年代中盤に村上春樹が『ノルウェイの森』を書いて大ヒットして以来、ビートルズの「Norwegian Wood」の邦題もいつしか『ノルウェイの森』に定着していったとあった。それでは私が77年に買ったビートルズのレコードの曲名に『ノルウェイの森』と書いてあったのはなんだったのだろうか。

調べもせずによくこんなことを書けるものである。村上春樹が『ノルウェイの森』を書くずっと前からビートルズのこの曲は日本では『ノルウェイの森』だったのであり、だからこそ村上春樹は小説の題名に選んだのだ。この小説が出たとき「ビートルズの曲名を題名にするなんてずるい」と思ったものだった。

さすがに今日ヤフーのニュースを見たら、その記述は削除されていた。ビートルズマニアから猛抗議が来たのに違いない。

『ベイツ・モーテル』

いよいよユニバーサルスタジオ訪問最大の目的であった、ヒッチコックの名画『サイコ』の舞台となったベイツ・モーテルだ。私は正直に言えば『サイコ』がそれほど怖いとも面白いとも思わないのだが、この映画の映画史における重要性、そのステイタスに憧れているという感じである。

映画の前半は、有名女優であるジャネット・リー扮する会社員が職場から大金を持ち逃げし、バレそうになりながらも豪雨の中、このベイツ・モーテルにたどり着く。観客はすっかり彼女に感情移入しハラハラドキドキだ。ここまでくれば追手は来ないだろうとやっとひと息つくと、彼女はまったく突然にこのモーテルの異常者に殺されてしまう。大金も横領もまったく無関係にだ。ここで初めて観客は、ここまでの話はどうでもよく、これから始る恐ろしい話の前振りにすぎなかったことに気がつくという仕掛けだ。心憎いまでの鮮やかなストーリー展開だ。

まあ、そういうわけで私はこのベイツ・モーテルが大好きなのだ。しかしこの写真を見て欲しい。なんと、ベイツ・モーテルの背後には緊張感のかけらもないオブジェが顔を出しているのだから腹立たしいではないか。私はバスから降りてこのモーテルの周りを歩いたり中に入ったりしたかったのだが、それは叶わず、バスは止まりもせずにスーッと通っただけだった。バスが通るのに合わせて、主人公のノーマン・ベイツのふりをした人がモーテルから女性の死体を運び出して車のトランクに詰めていた。バスはだいたい7分間隔ぐらいで運行していたから、この男は暑い中、一日に何十回もこの演技を繰り返しているのだろう。

こうして、夢にまで見た「ベイツ・モーテル」はあっさりと目の前を通り過ぎてしまったのだった。