ハンスご難

ハンスは、私が「黄レンジャー」と名付けたことからも想像がつくように、かなりの食いしん坊である。その彼が学生時代に経験した話が面白い。

アルバイトで中学生の家庭教師をやっていたのだが、そこで毎回ご馳走される夕飯がことごとく不味いのだという。何を作っても必ず何か一味が足りないのだという。といって、塩分が足りないとか化学調味料を使っていないとかいうのではない。どうにもうまく言えないのだが、何を作っても味というものが足りないのだという。

お母さんが料理が嫌いだというならそれもわかるが、本人は料理が好きで、ときには妙にはりきって珍しい物を作ったりもし、そういうときには特に不味いのだという。ところが子供も父親も、家族全員がその料理を美味い美味いと言って食べるらしい。常に人より多くを食するハンスだったが、そこではほとんどお代わりをしたことがなかったという(「自然にふるまう」ためにわざとお代わりをしたこともあった)。ときどき「ごめなさいね、今日は時間がなくて店屋物になります」なんて言われると心の中でバンザイ三唱をしていたそうだ。

その家は、子供もご両親もとにかくみんな良い人たちで明るく楽しい家庭で、自分にもとても良くしてくれたのでそんなことを言うのは心苦しいそうだが、そういう不思議な家庭があったそうだ。