パオロ・マッツァリーノの『日本史漫談』という本を読んだ。この人の本は面白くて、私はすべて持っている。世にはびこる社会学者たちのデタラメな主張をデータに基づいて片っ端から暴いていく大変に痛快な人なのだ。たとえば、少年犯罪は年々減り続けているのにマスコミや教育学者たちはそれを隠してか知らずか「最近は悪質な少年犯罪が多い」という間違った前提のもとにその原因を追究しているとかだ。前提が間違っているのだから、ゲームとか食品の欧米化などといった「原因」と推定されていたものはすべてもくろみとは逆に、少年犯罪が減る原因だったということになる。そうでなければ単に気に入らないものを悪者にしているだけの恣意的なデタラメな議論だということになる。
今回読んだ本の中で笑ったのは、佐田介石という人についてだ。佐田は幕末から明治初頭にかけての浄土真宗本願寺派(晩年は天台宗)の僧侶らしい。この人、ランプが日本を滅ぼすと本気で主張する『ランプ亡国論』を展開していたという。ランプで日本が滅ぶ理由が16もあるとして、次のように並べ立てた。
1.毎夜金貨大減の害
2.国産の品を廃物となすの害
3.金貨の融通を妨げるの害
4.農や工の職業を妨げるの害
5.材木の値上げさするの害
6.洋銀をますます広むるの害
7.舶来のこやしを入るる道を開くの害
8.消防の術も及ばざるの害
9.人を焼死さするの害
10.全国ついに火災を免れざるの害
11.火もとを殖やし増すの害
12.市街村落ついに荒土となすの害
13.五盗ますます増し殖やすの害
14.罪人をますます増すの害
15.眼力を損し傷むるの害
16.家宅品物及び人の鼻目までくするぶるの害
ということだ。とにかく自分が気にいらないものにいろいろと理屈をつけて悪にしたてあげる昨今の社会学者たちの手法がすでに確立していることにパオロは感心している。
その佐田とはどんな人物かというと「インキンタムシの治療と称し、酢を入れた鍋をコンロにかけて、そこに金玉をひたして温めていた」そうだ。これはいったい・・・・? どんな姿勢でそんなことができたのだろうか。
本を読んだ後でネットで佐田介石について調べてみたら、地動説が仏教の経典と矛盾するため、仏教が滅ぶと心配をして「仏教天文学」を研究していたという。とにかく困った人だったようである。