年別アーカイブ: 2015

尿ハネの研究

先日、NHKのテレビ『ためしてガッテン』で驚くべき研究成果が紹介された。

洋式トイレで男性が立小便をするときに、床に尿がハネることをどうしたら解決できるかというテーマだった。

結論を言えば、立ってする限りどんなに工夫しても床や便座などにハネるのであり、完全に防ぐ方法はなかった。尿を落とす位置によってはまわりの壁にまでハネるということが、色水の実験で明らかとなった。

私の場合は、ハネる以前の問題でそもそも方向が定まらないので、立ってやろうなどとは思いもよらないのでもともとハネる心配はないが、番組では一般人にインタビューして、どうしても立ってやりたいという夫と床を拭くのが大変だという妻の言い分を紹介していた。夫は尿をかける犬の子孫なのかもしれないが、夫の我がままのために小便を拭かせられる妻がなんとも気の毒であった。

番組ではさらに突っ込み、そもそも尿が便器に当たってハネる根本原因は何かを論じた。そして、それを研究しているアメリカの物理学者デビッド・トラスコット准教授とランディ・ハート研究員の成果を紹介した。この二人はなんと「Splash Lab」(尿ハネ研究所)というのを作って尿ハネの研究をしており、この度、驚くべき研究結果を発表し学会を騒然とさせているという(何の学会か知らんが)。

二人が発見した尿ハネの原因とは、なんと尿の表面張力であった。尿は放出されると、表面張力によって空中で球状に分離され、それが便器に当たり、球体が弾けることによってハネることがわかったのだ。実は放出直後には尿はまだ球になっておらず連続体になっていて、その状態で便器に当たるとまったく一滴もハネないということを理論と実験で明らかにしたのだ。

そして、そのハネないための限界距離は一定で、12cmだという。かなり近いが、ともかく放出口から12cm以内の距離で便器に当てれば、どんな角度でどんなに強く当たってもハネないのだ。

素晴らしい研究をする人がいるものだと久しぶりに感激した。

変形ラケットの終着駅

大友くんによれば、ハンドソウラケットには思わぬ効用があるという。

それはダブルスで異質の選手と組む場合だ。ラケット交換のときに、相手選手は必ずといっていいほどハンドソウラケットに注目してひとしきり盛り上がり、パートナーのラケットをろくに見ないのだという。それで、パートナーがアンチを貼っていたりすると試合が始まってもしばらくそれに気がつかず、ミスを連発するという。

ホントかいな。

大友くんはハンドソウ以外にも変形ラケットに興味を持っていて、いろいろと教えてもらった。

彭式ピストルグリップだ。中国で売られているという。しかし、ハンドソウが穴に中指を差し込むことで安定させるのに対して、このラケットは人差し指をかけるだけなので安定しないという。

「目くそ鼻くそ」という諺が浮かんだのは私だけだろうか。

もっと凄いのがこちら。いかにも絶望的なラケットたちだ。

「GBサイエンス・ブレード」とか銘打って何やら世界チャンピオンを出すのが夢だとかデカいことをハンガリーのウエブサイト www.gb-bladefamily.com で吹いていて、ゲルゲリーやらバトルフィやらが宣伝している。GBラケットだけの大会もあるようだ。何がトゥモロウなんだか。

ハンガリー、そんなことしてるから最近弱いのか!

極めつけはコレ。Brodmann Bladesだ。

手のひら感覚で打てるという気持ちはわかる。なんかYoutubeでかっこいいビデオまで作られているのだが、いかんせん、ルール違反に見えるのだがどうだろうか。

変形ラケットの終着駅であろう。使う場合はくれぐれも自己責任でお願いしたい。

もうひとつの演説

仙波の演説でもうひとつ有名なものがあったという。

「卓球やっててもモテるヤツはいる。しかし、卓球やってるからモテるというヤツはいない!」

つまり、野球部で逆転ホームランを打ったとか、サッカー部で大活躍したからモテるということはあっても卓球部のラストで勝ったからモテるということはないということだ。そもそも、そのシーンを見られないのだからモテようがないということかもしれないが、ともかく中学2年の仙波キャプテンはそのように力説したという。

「俺たちは卓球をやる以上、そういう幻想は捨てなくてはならない。お前たちにその覚悟はあるのか」

ということらしい。女子にモテるかどうかという一見極めて低俗なようでいて実は普遍的なテーマをこうまで力説されて部員たちはどう思っただろうか。あげくに全員異質。モテようがない。

ましてハンドソウ両面1枚(フォア面は回転系の一枚!)と聞くと、正直、近づかない方がよいのではと思うのが人情だが、本人に会うと好青年なので、そのギャップでとんでもなく素晴らしい青年に見えるという効果もあるかもしれない。

大友くんは、このブログのコメント欄を通してもうひとりのハンドソウラケットの使い手と知り合いになったので、そのうち全員ハンドソウのチームを作ることをもくろんでいるという。

かつて大友くんは、全員「大友」のチームを作って大会に出たという。さすがにこれはインチキの名前だったので主催者に怒られたという(やっぱり好青年じゃないかもしれない・・・)。

これに比べれば全員ハンドソウチームなどルール違反ではないのだから大手を振って作れるはずだ。くれぐれもその中に「本物の変人」「アブない人」がいないことを願うばかりだ。

ちなみにカリスマ仙波は、将来なりたい職業として「PTA会長」を上げていたという。式典で一番長く話すのだから一番偉いに違いないというのがその理由らしい。

演説の達人、革命家であったゲバラに対する尊敬と、中学生らしい稚拙さが入り混じったなんとも絶妙なチョイスであった。

それぞれの物語

大友くんから聞いて感銘を受けたのは、ハンドソウラケットとか一枚ラバーとかゴリラの話ではない。

彼の中学時代の卓球部の話がとても感動的だったのだ。

彼が通っていたのは茨城県の中学校で弱小卓球部で、市の5つの学校のうち、間違いなく最下位だったという。団体戦で一勝もできないのはもちろんのこと、個人戦でも数えるほどしか勝った者はいなかった。

2年の夏のある日、キャプテンの仙波(せんば)という男が「話がある」と言って部員を集めた。仙波はキューバの革命家ゲバラに感化されている男で、休み時間に友人を集めて演説の練習をするような男だった(本当に中二か?)。

仙波は言った。「お前たち、このままでいいと思ってるのか?この中で勝ったことがあるやつ手を挙げろ」

大友が恐る恐る手を挙げたぐらいで、他に勝ったことがある奴などいなかった。

「お前ら勝ちたいだろ?俺たちが勝つためには方法は一つしかない。明日から全員異質ラバーにしろ。裏ソフトで勝てるのは才能があるやつだけだ」

仙波はそう言って部員全員を異質ラバーに転向させた。そして自らは裏ソフトのままで「俺はお前たちの練習台になる」とドライブを打ち続けた。

新人戦はさすがに間に合わず惨敗したが、翌年の中総体の市予選でこれまで勝ったことがないチームに3-0で勝った。大友はそのときの会場の「何が起きている?」というざわめきを感じたときの快感が忘れられないという。

その時のオーダーは

1.ペン表

2.シェーク表表

3.シェーク裏粒高/シェーク裏粒高

4.シェーク裏粒高

5.シェーク裏アンチ(大友くん)

という布陣で、キャプテンの仙波はベンチから眼光を放っていた。

そしてついにチームは2位となり、前代未聞の地区大会出場という快挙を成し遂げた。このときばかりは仲がよいとは言えなかったメンバーたちも抱き合って泣いたという。

仙波は父親がIT関係の仕事をしていたこともあり、2003年当時からインターネット環境を持っており、メンバーのために勝つための最良のラバーを探していた。あるときセイブが使っていたアンドロのゼニスGというラバーを探し当て「これが世界最先端のラバーだ」と言ってメンバーに使わせた。「ブライスの方がいいのでは?」という仲間に彼は「お前な、ブライスが何年に発売されたか知ってるのか?ゼニスGの方が新しいんだからこれが世界最先端に決まってるだろ!」と説得した。知識と論理はさすがに中学生だが、この説得力はとても中学生とは思えない。

こうして大友くんは仙波というカリスマのおかげで楽しい卓球生活を送ることができたのだ。大友くんは、仙波からもらったアンドロのステッカーを「大人になって車を持つようになったら自分の車に貼ろう」と決心し、大切にファイルした。

それが今、彼の愛車に貼ってあるステッカーだ。アンドロのステッカーを愛車に貼っている男が世界にいったい何人いるだろうか(何人いてもいいけど)。

それにしても 「全員異質ラバー」

このフレーズが意味すること、感じられる悲哀を卓球人ならわかるはずだ。他のスポーツでこれと匹敵する戦略は考えられないだろう。あったとしてもせいぜい野球で「全員バント」とか、マンガのように効力のないものでしかなく、それで本当に勝つという実効性のある作戦は考えられないはずだ。こういう戦略が成り立つのは卓球というスポーツの多様性の証なのだ。

そこに、それぞれの物語が紡がれる隙間が出てくることになる。卓球とはなんと素敵なスポーツなのだろうか。

それで思い出した。以前、ラジオ番組に出たとき、もしアナウンサーから「伊藤さんにとって卓球とは何でしょうか?」と聞かれたら答えようと思っていたフレーズがある。

「キング・オブ・スポーツ、スポーツの中のスポーツです」だ。一般人はバカかコイツと笑い、卓球ファンは感動するという両面待ちのフレーズだと思うのだがどうだろうか。

卓球ドランカーの宴

先日、『卓球天国の扉』の冒頭の話を読んで泣いたという青年とお会いした。

以前このブログでも書いたことのある大友秀昭くんという人で、ハンドソウグリップに両面一枚という狂人の部類の人だ。

この方のハンドソウを使いこなすための情熱がすごい。ハンドソウは打球感が手に伝わりにくいので、少しでも伝わるようにグリップの掌にあたる部分だけをコルクではなく木にしているとか、重心が先にあって重いので両面一枚にして軽さを追及しているとか、目的と手段を取り違えたような感じが素晴らしい。サイドグリップがノイバウアー製なところもわかってる(笑)。

問題はサーブだが、なんとか回転をかけようと回転系の一枚を使っているという。そんなのあるのかと思うとちゃんとあって、日本に在庫がなく4ヶ月かかって手に入れたという。

パッケージにはなぜか「ドイツ製高弾性スポンジ」と書いてある。めんどくさかったのだろう(笑)。

パッケージの裏の特性表にはちゃんと一枚も載っているのだが、

なんと空欄(笑)。前代未聞の珍事だ。しかも一枚のくせに3,700円。

大友くんは、当然のようにノイバウアーの『ゴリラ』も1万円出して半年待って買ったが、あまりに極端でさすがに使いこなせなかったという。私も触らせてもらったが、確かにツルツルだった。

彼は、生まれつきハンドソウというわけではなく、あくまでウケ狙いで2年ほど前から使い始めたという。その効果は絶大で、どこに行っても目立ち、今では以前では考えられないほど各地に友人ができたという。

他にも激しいイップスの克服など、彼の味わった苦難の卓球半生を聞くことができ、とても感銘を受けた。あまりに感銘を受けたので、休筆中にもかからわず次の単行本のタイトルが浮かんだほどだ。

『卓球ドランカーの宴』 ~卓球マニア重症カルテ~

彼が持参した『ようこそ卓球地獄へ』と『卓球天国の扉』にサインをしたのだが、その際に本に触ってみると、今まで見たことがないほどに本全体が柔らかく、むちゃくちゃに読み込んでいることが手に取るようにわかり(手に取ったのだが)感動した。

日本の卓球界はこういう青年に支えられているのだなと思った。違うか。

微妙な小料理屋

ここ2、3年、出張でひとりで飲み屋に入ることが多い。以前はそんなことはなかったのだが、震災直後にやたらと飲み会が多かったのがきっかけで酒が好きになってしまったのだ。

それで、チェーン店ではなく地元の人たちが集うような小さい店に入って人間模様を見るのが最近の楽しみだ。

先週も蒲田の小さい小料理屋に入ったのだが、なかなか微妙な店だった。店内は常連で盛り上がっていたのだが、ほとんど私と話していない激しく年配のママさんが突然私のところに来て「一杯いただいていいかしら。380円のビールです」と言った。

仕組みを知らない若者たちのために解説すると、大人の飲み屋では店員が酒を飲むのに客に許可を得る必要があるのだ。なぜかといえば、あきれたことにその代金を客が払うことが前提になっているからだ。そのかわり客は、魅力的な女性店員が酒を飲んで自分と話してくれるわけだから、酔って自制心をなくして嬉しい間違いが起こるのではないかという妄想だかファンタジーだかを抱き、そのために「いいよ」と言うことになるわけだ。店員はできるだけ酔ったふりをして客に「もう一杯飲ませればどうにかなるのでは」と思わせ、さらに奢らせることになる。

店員も、客が金を払うからには飲まないといけないので、店の売り上げを上げるためにまさに体を張って飲むことになる。

先日、仙台駅前のバーで同様に学生アルバイトだという店員から「ワインいただいちゃっていいですか?」と言われたので許可したところ、ちょっと口をつけただけであとは飲まず陰に隠され、私が帰ったら捨てようというのが見え見えだった。こういうのは職業倫理上ダメなのだ。

さて、蒲田のママさんだが、そのビールを注ぐとすぐにもとの常連のところに帰って行き、私と話す様子はなかった。私はもとより何も期待していなかったものの、こうまで接触が少なく、奢る筋合いのない状況で奢らされたのは初めてだ。

しかも焼酎1杯と枝豆と冷奴とカンパチの刺身(+奢ったビール)だけで3,000円だった。高い。

嫌な気持で店を出ようとしたら雨が降っていた。するとママさんは返す保障もない私に「どうぞ」とビニール傘を手渡してくれた。それで私は急に優しい気持ちになったのだが、歩き出すとやたらと雨が漏れる傘で、また嫌な気持ちになったが呆れて可笑しくなってしまった。

良いところは何もないような店だったが、怖いもの見たさでまた行ってみたい気持ちに駆られている。

背もたれ倒し

新幹線などで座席の背もたれを倒すとき、どの程度に後の人に気を使うかは、人によって違う。

わざわざ後の人に「倒してもいいですか?」と聞く人もいれば、悪意があるのではと思えるほど無言で急に倒す人もいる。私は自分がやられてちょうどよい程度に気を使って倒す。すなわち、無言ではあるがそろりそろりとゆっくり倒す。これが後の人にどう思われてるかはわからないが、それほど間違った行為ではないだろう。

先日、飛行機に乗ったときにこれまで経験したことのないような不愉快な目にあった。

前の人が座席の背もたれを恐ろしく急激に動かす人だったのだ。倒すときはまるで親の仇のようにグッグッと倒し込み、戻すときはこれまた何の手加減もなくバネの復元力すべてを使って跳ねるように戻す。これを何の都合か知らないが何回か繰り返すのだ。

これの何が困るのかと言えば、その背もたれの背面には私が見るためのモニターがついているのだ(笑)。どれほど不愉快かわかるだろう。ちょっと横から覗いてみると、その人自身も前の人の背もたれの背面についているモニターを見ている。つまり、そういうことを知りながらやっているのだ。

「これは絶対に日本人ではない」

そう思って後で確認すると、若い金髪の白人女性だった。やっぱり。

検証、ジャイロサービス

コメント欄にジャイロサービスについての質問があったので、解説したいと思う。

ジャイロサービスとは、回転軸が相手の方向を向いたサービスのことで、卓球界ではときどき魔球のようなサービスとして語られることがある。

結論から言えば、今の卓球ルールにおいては、完全なジャイロサービスは物理的に不可能、完全ではないジャイロサービスなら可能だが、特に役に立つわけではないというものだ。

詳しく説明しよう。通常、ジャイロサービスといえば誰でも思いつくのが図のようなサービスだ。

ボールの横を上に擦り上げることで回転軸が進行方向に近くなり、空中ではあまり曲がらないが、相手のコートに弾むと台との摩擦で激しく曲がる。一見、良さそうだが、なにしろ上に打ち上げるので球速が遅いし、普通に卓球をしている者なら、出した瞬間にその後の軌道が予測できるし、実際に打ち返してみると、これは【図2】のようにして出す通常の横下とほとんど変わらない。

なぜかといえば、そもそもジャイロを出すときには、気持ちは【図1】のようなつもりでも、実際にはラケットを上だけではなく斜め前方に振っているので(そうしないとボールがコートの方に飛ばない)この横下との中間のような打ち方になっているからだ。だから回転も横下気味とならざるを得ない。

だから、ジャイロは可能だがそれは横下と似たようなものであり、特に役に立つわけではないというのが私の考えだ。

次に、よくあるまったく別の観点でのジャイロ信者の主張を検証してみよう。ジャイロを特別視する人の中には、【図3】のようにボールの右側を打ちおろすことで、【図1】と同じ回転のサービスを出すことができるという人がいる。

これができると、右利きの選手がボールの右側を打ちおろすしゃがみ込みサービスで、相手コートで右に曲がるサービスが出せるというわけだ。通常、こういう出し方をすればボールは左側に曲がるわけだから、これは通常と逆に曲がる、まさに魔球となるわけだ。ところがこれは絶対にできないのだ。

そのためにまず、【図4】のような、完全なジャイロサービスについて考えてみよう。

実際にはサービスは台に2回弾むことで回転軸が少しづつトップスピン方向に変わるのだが、それは無視して、とりあえずサービスの打球直後に回転軸が相手の方を向く場合を考える。

大前提を確認しておくが、卓球でラケットでボールに回転をかける場合、必ずボールのある一点をどの方向にか擦る方法でしかかけられない。何本かの手の指でボールをつかんで捻りながら押し出すというようなことはラケットではできない。できそうな気がしている人がいるかもしれないがそれは錯覚であり、必ずボールの一点を直線的に擦ることしかできないのだ。ラケットで包むようにしてとか、当たる瞬間にひねるとか、いくら頑張っても結局は一点で直線的に擦ることしかできない。どんな打ち方をしようとも、ラケットとボールが当たっている時間は千分の一秒しかないからだ。

それを理解した上で【図4】のようなジャイロ回転を出す方法を考えると、図のようにボールの赤道上の一点を赤道に沿って打球しなければならないことがわかるだろう。ところがその方向には、コートの方にボールを飛ばす成分が含まれていないので、どうやってもボールを前に飛ばすことができず、したがってサービスを入れることができないのだ。入らないで自分の足元に落としてよいのならもちろん可能だ。実際、ボールは足元で右に転がっていくだろう。しかし入らないのではどうしようもない。

ちなみに、打球とは別の手段でボールをコートの方に飛ばすことができれば入れることが可能だ。たとえば今ではルールで禁止されているが、左手で思いっきりラケットにボールを下から叩き付ける、いわゆるぶっつけサービスならば、実際にボールの右側を打つしゃがみ込みサービスで相手のコートで右に曲がるサービスが私も出せる。これが先に「今の卓球のルールでは」と断った意味だ。もちろん、ぎりぎりルールの範囲内で斜め前方にトスし、なおかつコートの上空数メートルから叩き下せば同様のサービスが可能かもしれないが、そんなものができた内に入らないのは言うまでもない。

次に【図5】のように、回転軸が相手の方向に傾いたジャイロサービスを考えてみる。

この回転は、実は【図1】のジャイロサービスと同じ回転だから、実際に右に曲がる。ところがこれをボールの右側を打って実現するためには、前に飛ばすどころかコートから離れる方向に力を加えなくてはならず、ボールをコートの方に飛ばすことは不可能なのである。だからこのサービスは絶対に出せないのだ。

可能なのは、ボールをわずかでも前方に飛ばす打ち方、すなわち【図6】のような、回転軸が手前に傾いたジャイロサービスだ。

フォアサイドのサイドラインの外側に立って、ラケットが台にぶつからないようにして切り下せばできる。しかしこのような打ち方をすると、ボールを台に叩き付けることになるので、ボールが右に曲がるほど回転をかけようとすれば何10センチもバウンドが高くなる、まるでサービスからロビングをしたかのようないわゆる「クソサービス」となる。そこまでして逆に曲がったところで意味はない。

バウンドが高くならないようになおかつ回転をかけると【図7】のような打ち方にならざるを得ず、結局これは相手コートで左に曲がる通常の横下回転あるいは横回転サービスとなってしまうのである。以上をまとると「横下とほとんど違和感のないジャイロサービスなら可能だが、特別な効果のあるジャイロサービスは不可能、したがって話題にする価値がない」というのが私の考えだ。

無念、マスターズ予選

今日は、全日本マスターズの宮城県予選に出場してきた。

2006年以来、9年ぶりの出場だ。ちなみに2006年に出た時は、予選で全敗したのに全国出場するという離れ業をやってのけたものだった。

そのときは、予選に来たのが5人で、上位2人が全国出場となるのだが、私は総当たり戦でさっそく3連敗し、早々に本戦出場の望みがなくなったのだった。それで、最後に同じく3連敗したBさんと最下位決定戦をすることになった。

このBさんはカットマンなのだが、私とは因縁の関係にあり、過去のマスターズ予選で3回ほど対戦し、そのたびに壮絶なツッツキ合いから最終ゲームにもつれ込むというひどい試合になり、たまたま私が全勝し、そのためにBさんは本戦出場を逃し続けているという間柄だ。

その因縁のBさんと最下位対決という後ろ向きの試合をしようと思っていたら、あまりの暑さでへとへとになったBさんから「伊藤さん、俺、棄権すっから。伊藤さんの勝ちでいいよ」と言ってきた。それで私は最下位を免れて4位となったのだが、後日、1位と2位の人が仕事の都合で本戦に出場できなくなり、繰り上げで私が出場することになったのだ。

こうして私は予選で1回も勝っていないのに佐賀に行き、Bさんはまたもや本戦出場を逃したというわけだ。試合を捨ててはいけないという教訓だ(ちなみに私が本戦でさらにひどい目にあったことは言うまでもない)。

さて、今日の試合だ。いろいろあって5人中3位となり、残念ながら本戦出場はならなかったが、みなさん、私が卓球コラムニストであることを知っていたようで、試合の後に記念写真を撮ることになった。

0-3で飛ばされた直後に「いつも読んでます」と握手を求めてくれた柾谷さん

左から、2位の柾谷さん、私、1位の伊藤さん、竹ノ内さん、小西さんの勇姿

知人からは「卓球が本業じゃないし卓球コラムニストなんだから負けてもどうってことないだろう」と言われたが、とんでもない。写真では無理して笑っているが、いつどんな試合でも負けるのは本当に泣いてやろうかと思うほど悔しい。練習してるかどうかなど関係ないのだ。

伊藤さんと柾谷さんには本戦でも頑張ってもらいたいものだ。

棄権するときはヨロシク!(笑)。

チキータのコツ

現代卓球の革命的技術であるチキータ(台上バックハンドドライブを含む)の要点は、如何にして、切れた下回転を持ち上げられるだけのインパクトのスピードを出せるかだ。

そのための重要なコツを物理的に考えると、ラケットの先端にボールを当てなくてはならないはずである。スイングの回転半径が小さいチキータでは、手首を使うサービスと同様に、ラケットの根本と先端ではスピードが大きく違うはずだからだ。

したがって、チキータが上手な選手はラケットの先端にボールを当ててインパクトのスピードを出しているに違いないのだが、私はそれを確かめたことはなかった。

そこで、卓球王国から発売されているDVD『松下大星の裏面打法』に収録されている、ハイスピードカメラによる撮影部分全6カットのインパクトを確認してみた。結果は写真の通りだ。

見事に先端だ。編集部が、先端に当てたカットだけ選んで使った可能性はない。このDVDの中で「先端に当てる」というコツは一切説明されていないし、それを示す静止画もないからだ。

ちなみに、同じDVDの中で、ブロックをする場面の写真が下だ。

ボールの粉がついている位置が若干内側であることがわかる。チキータ以外の打法では先端に当てることは難しい上にメリットがない。チキータは台上の短いボールに対してするものだ。短いボールはかならず遅い(短くて速いボールは物理的にあり得ない)ので、確実にラケットの先端に当てることができるというわけだから、うまくできているものだ。

勘のよい若者たちは無意識にこういったコツを体得するのだろうが、これから挑戦しようという年配者は、このことを意識する必要があると思われる。私もこれを意識すると、ときどきできるので間違いない(笑)。

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