初めての風呂

地震以来、初めてまともなお風呂に入った。

我が家はガスも電気も水も来ているのだが、地震直後の停電で凍結防止機能が失われたときに給湯器が凍結して壊れたのだ。台所で湯を沸かして少量を風呂に入れるインチキ風呂は2回入ったが、まともな湯量の風呂は今日が初めてである。

隣の家にはこれまで、玄関から上がったことすらなかったのだが、わざわざ誘いに来て風呂を勧められたので、ありがたく使わせてもらった。毎日ドブさらいのようなことをしていて自分でも臭いほどだったので助かった。

ただ、風呂に入らない生活をして思ったことは、慣れればなんでもないということだ(毎日ドブさらいさえしていなければだが)。余震に備えていつもジーパンにセーターを着て寝ているのだが、これも慣れると非常に心地よい。なにしろ起きている状態の服装で布団に入るのだからポッカポカに温かいのだ。起きたときにはもう手足の先が快感で痺れるほどぬくいのだ(ちょっと大げさかな)。これまで思い込んだようにパジャマを着て寝て、ときどき布団がずれて寒いなんて言っていたのがバカバカしい。すべてはパジャマ屋(そんな職業があるかどうか知らんが)の策略だったのだっ!

ゴワゴワして寝にくいのではないかと思う人もいるかもしれないが、これもすぐに慣れる。私は財布、デジカメ、携帯電話、車のキー、メモ帖とペン、これらを起きているときと同じ定位置のポケットに入れたまま寝ているのだが、気にもならず大変に快適である。携帯電話がいつもポケットから出て変なところにあるが。

今後、一生このスタイルで行こうかと思っている。

なお、妻は風呂に入らないことに体がすっかり慣れてしまい、例のインチキ風呂に入ったら目まいがして具合が悪くなったという。まあ、こういう特殊な人はあまり参考にはならない。

気が狂うCM

地震があって以来、テレビのCMの種類が限定され、公共広告機構の同じCMが異常な頻度で流されている。

初めはどうということはなかったのだが、こうも高頻度に流されると流石に苦痛になってくる。仁科明子親子の乳癌健診のCMは、あまりにも多くの批判が視聴者から寄せられ、そのためか数日前からすっぱりとやらなくなった。

我が家でもっとも評判が悪いのが「楽しい仲間がぽぽぽぽーん」という挨拶奨励のヤツだ。これが始まるたびに「ひーっ」「気ィ狂うーっ」「許してくれーっ」と言っているが、容赦なく2連発も3連発もかまされる。

妻は「魔法のことばで」という音程が上昇するフレーズと、「楽しい仲間が」というところのスキップの最後にちょっと飛び上がるところを見るのが一番つらいという。

要するに、もう何もかもが気に入らなくなっているのだ。同じことをこれほど繰り返されれば嫌になるのも当然だ。いっそのこと、無理にCMを流さずにカラーバーなどの無機的な画面にしたらよいのではないだろうか。それはそれで「ピンクと黄色の境目が気に入らない」などと言いかねないが。

初めての申し出

瓦礫撤去作業には朝8時から息子たちもつき合わせたのだが、作業を始めて2時間したら「俺たち、もうそろそろ勉強しないといけない」と言った。初めて聞く台詞だ。今日は勉強しなくていいと言って作業を続けさせたが、昼頃になると「2時から友達と遊ぶ約束がある」と言うので、午後は自由にしてやった。

妻の話だと、家に帰ってきてあわてて何人かと連絡を取り、むりやり遊ぶことにしていたようで、どうも「約束がある」というのはウソのようである。

まあ、そんなもんだろうな。

作業の服装

最近は、会社でも家でもとにかく泥さらいや瓦礫運びが多いが、その時の私の服装はいつも決まっている。どうせ汚れるのでなるべく同じものを洗わずに着続けるのだ。

髪を切って頭も寒いし危険なので一応、帽子を被っている。この格好のせいでなかなかすれ違っても私だと思われないのが面白い。目をあわせられないためかな。

作業の途中で疲れて、使っていたスコップをしげしげと眺めると「金象印」と書いてあった。「英語ならGold Elephant Markか」などと無意味なことを考えた。

象がスコップを鼻で持っているマークがキュートだ。

ボランティア

昨日、今日と、町内会のボランティアとして水没した地域の瓦礫除去作業に参加した。

一輪車かリヤカーがあればはかどるのだが、数に限りがあり、ほとんどの人が手で持って集会所までの2、300メートルも運ぶという気の遠くなるような作業だったが、それでも参加者が多いので、朝から夕方までの作業でかなりきれいになった。

途中、瓦礫を集める場所のことで揉め事が起きた。ゴミを集めることになった空き地の近くに住むおばさんが、自分の家の近くにゴミを置かれるのが嫌だというのだ。別にその人の敷地に置こうとしているわけではない。近くの空き地に置いているだけなのだが、この非常時にそれにすら文句を言うのだ。

その文句が面白い。「みんな自分のところだけはきれいにしたがるんですよ」と他人を批判しているのだが、まさに自分に当てはまっていることを言っているのだ。あげくのはてに、床上浸水した家の駐車場が空いているからそこに置けばいいというのだ。よりによって、家には住めず今でも近くの小学校の体育館で寝泊りをしている人の家の駐車場をゴミ置き場にしろと言うのだから、なんとも見上げた根性である。

仙台市のゴミ撤去部隊が作業をするのに、ある程度まとまった場所に集めて置かなくてはならないので集めているのだと説明をしても、とにかく自分の家の近くは困るの一点張りである。さすがのボランティア隊長も「私、ブン殴って良いですかね」と陰で言っていた。

左の写真が、文句を言われたゴミの山。右の写真が、あわやゴミ置き場にされそうになった水没した家。窓ガラスの表面に水の跡が残っている。

産地の明記

最近では、いろんな食品で「無添加」が大流行だが、それと同じくらい流行しているのが産地の表記だ。「山形県○○村産の大根」などと書かれても、それが良いのか悪いのかさっぱりわからないのだが、わざわざ書くくらいだから良いのだろうと客が勝手に思うのを利用した巧みな技だ。

これを逆手にとって、「無菌状態で純度100%の原料を使って精製されたソルビン酸カリウム合成保存料を使用」とやったらどうだろうか。逆効果か。

それはそうとして、今日入った寿司屋では、店員の名札に「仙台市出身 高橋○○」と書いてあった。なるほどこう書かれると「八木山あたりかな、東仙台あたりかな」などと興味が沸いてくる。そういえば、忘年会をやった店では山形出身と名札をつけた店員がいたのを思い出した。

どうも店員の産地まで書くのが流行りつつあるようだ。

「がんばろう東北」

今日は、息子たちの高校の制服の採寸のため、仙台市内の中心部に行った。
先週とは見違えるほど多くのレストランや喫茶店が開いていて、もはややっていない店の方が少ない感じがした。

あるソバ屋は、まわりの店がやっていてその店だけがやってないのに、「臨時休業中 がんばろう東北」と書いてあった。

「いや、がんばらなくてはならないのはお宅ですが」って思ってしまった。

放射性物質の影響

福島原発の事故に伴い、あちこちで暫定規制値を超える放射性物質が測定され、出荷自粛だの摂取を控えるだのの騒ぎになっている。

専門家によれば、暫定規制値はかなり厳しい値であり、現状で計測されている値はほとんど気にする必要がない値だということで、いかに安全かということをテレビで説明していた。

私としては、もうひとつ説明が必要だと思う。「少量なら安全だ」と言われても、少しでもリスクがあるなら避けたいと思うのが人情だろう。それはひとつの誤解に基づいている。物質には人体に無害の物と有害の物があるという誤解だ。実際には、過剰に摂取すればどんな物質でも有害であり、底抜けに無害な物などこの世にはないのだ。砂糖だって塩だってアルコールだって水だって採りすぎれば弱い放射線を浴びるよりずっと恐ろしい事態になる。だからといって「少しでもリスクを減らすため」にこれらを自粛する人はいない。そんなことをしたら摂取できるものはひとつもなくなるからだ。

そういう説明を具体的な例(塩を通常の何倍採ったら死ぬか等)を挙げて説明するともっと納得してもらえるのではないだろうか。

水を求めて並んだり食べ物を捨てることの方がずっと確実な無駄である。

日本好き

三男の小学校の卒業式があり、通信簿と工作を持って帰ってきた。

工作はオルゴール付きの小物入れだが、なんとそのデザインは日本の国旗。

よっぽどアメリカ生活が嫌だったらしい。わが三男は、左翼の人たちが大騒ぎしそうな「軍国少年」というところだろうか。

折りしも震災で日本人の品格が世界に認められつつある昨今、私にとっても非常にタイムリーな工作だったといえる。それにしてもデザイン性のかけらもないが。

さらばマーチ

会社の駐車場に停めてあった愛車マーチが見つかった。ちょっと離れたところにレッカー移動されたらしく、他の車たちと一緒にぎっしりと並べられていた。車のナンバーは覚えていなかったが、トランクに見覚えのあるコードとボックスティッシュがあったのでわかった。後の席には田村の自転車を積んだときに汚れないように敷いた新聞紙が残っていた(田村は「これで自転車でシートを汚したのを気にしなくて良くなりました」と喜んだ)。

助手席の物入れから車検証を見つけて自分の車であることを確認した。

何台かの車にチラシが貼ってあるのでよく見ると、運んで廃車手続きをしてくれておまけに買ってくれるのだという。早速電話をかけて買取価格を聞くと5,000円~10,000円だということだ。只でもいいくらいなのでお願いすることにした。

さも人助けのためのようなことを書いてるが、ちゃんと儲かるのだろう。ガソリンもしっかり抜くんだろうな。書いてあったウエブサイトのURLにアクセスすると「作成中」となっているし、仙台の小さな会社だというので、おそらく震災後に急にビジネスを思いついたのだろう。たいしたものだ。

29万円で買って、発進時に下の方からカタカタと音のするクソ愛車マーチだったので、まあ良しとしよう。

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