先日、卓球王国の編集長かつ社長である今野さんと食事をした。
中国選手はフォア側のラバーは必ず黒だけど日本選手は赤だとか、卓球雑誌の編集長ならではの、深いんだか浅いんだかわからないウンチクを熱弁してもらった。
こんな話はこれまで誰からも聞いたことはないし本人もそうは思っていないが、この人は世界の卓球界を牛耳っている凄い人だと私は思っている。
卓球界には次の5つの側面がある。
①選手 ②指導者 ③メーカー ④協会 ⑤一般ファン
この5つの側面のすべてにおいて、世界中から信頼を得て人脈を持っているのが今野さんなのだ。選手や指導者とは誌面作りや取材の関係で世界中と交流があるし、主要メーカーの社長たちと個人的な親交がある。日本卓球協会の前原専務理事とは旧知の仲だし、国際卓球連盟とはシャララ会長を初めとして息のかかった者が何人もいる。雑誌を通して一般ファンの信頼を勝ち得ていることは言うまでもない。考えてみると、この5つの側面すべてにおいて信頼を勝ち得ている卓球人というのは他にはいないのだ。「タメ口の今野」と言われるほど率直な物言いと独断的自信に満ちた英会話力、卓球を普及させるというブレない信念のもとに、常に公正な態度をとるところが信頼を得ているところだろう。
そして私にとっての付加価値は、なんといっても、今野さんが、かの荻村伊智朗にいじめ抜かれた人だということだ。荻村伊智朗のもとで卓球をしたはいいが「お前は卓球をする資格がない」「そういう態度のヤツは二度と海外への取材には連れて行かない」「お前はフォアよりバックの方が上手いから試合はオールバックでやれ(ペン角型裏ソフトなのに)」などと、ことあるごとに糞みそに言われたという。脈があるからこそ厳しく接したという言い方もあるが、そういうのは大概は体裁をつくろうためのウソで、単に心底気に入らなかっただけだろう(そもそも脈などないし)。先日文庫化された城島充さんによる荻村伊智朗の伝記『ピンポンさん』では、犬に手を噛まれて荻村に怒られた男としてだけ、今野さんが出てくる(273、336ページ)。そういう形ではあっても、私は今野さんの顔に、私がついに会うことができなかった荻村伊智朗のくっきりとした足跡を見るのだ(踏まれた跡だろうな)。
荻村伊智朗にいじめられた成果かどうかはわからないが、今野さんは今では卓球界を動かす男になったのだ。私も、卓球界で仕事を続ける以上はこの人についていけば何か良いことがあるに違いないという熱い下心のもと「今野チルドレンとして一生ついていきます」と言い続けている。田村が「俺にもおすそ分けくれ」と言うので「いや、お前は俺についてくればいいから」と言って適当にごまかしておいた。何をどうついてくるのか知らんが。
本人によれば今野さんは「短気で根に持つタイプ」だという。私は他人の発言は言葉どおりに受け取ることにしているので、その通りなのだろう。
今野さんは、話が面白くて「短気で根に持つタイプ」で、なおかつ卓球界のドンなのだ(繰り返すが、そう言っている人は私の他には知らない)。こう見えて大変な人なのだこのオヤジは。