私は他人の話し方の癖が気になるので、なるべく自分は癖を持たないように努力しているのだが、そのせいか、いつも話し方に抑揚がないと言われる。その抑揚がないところが癖になってしまっているという皮肉な結果だ。自分ではどこがそうなのかさっぱりわからないが「面白いですね」と言うときも全然面白くなさそうだというのだ。とくに今野編集長からはいつも「無感動な感じで話していても暖簾に腕押し、糠に釘」と言われる。まあ、今野さんのギャグは本当に面白くない場合もしばしばなので仕方がないのだが、ともかくそのように聞こえるらしい。
癖を持たないようにするだけではなく、流行りの言葉や言い回しも身に着けないようにしている。軽薄に聞こえるからだ。そんな私もかつて一度だけ、知らぬ間に流行りの影響を受けてしまっていたことがある。仕事で返事をするときの「わっかりました」だ。若干の心の迷い、逡巡を持ちながらもそれらを飲み込んでとりあえず承諾するニュアンスをもつ言い方で、難しい判断をしたふりというか何かを犠牲にして承諾している雰囲気を醸し出すというか、まあ、要するにカッコつけた言い方なのだ。私は世の中にはびこっているこの流行りに気づかずに使っていて、あるとき会社の先輩に返事をしたとき「何その”わっかりました”っていうの。どういうつもりでそんな言い方してるの?」と問い詰められたのだ。その先輩も流行りの影響を受けるのが嫌いな人で、周りの誰もが私のことを条太と呼ぶのに一人だけ何年も伊藤と呼び続けるつわものだったから、その道では秘かに尊敬をしていたのだった。
その先輩に指摘されたことを私は深く恥じ、それ以来、一度も使ったことはないが、他人の「わっかりました」が気になって仕方がなくなったことは言うまでもない。このブログの読者にもその気持ちをおすそ分けというか道連れにしてやろうと思う。